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[4]生活を豊かにする音響技術

立命館大情報理工学部教授 西浦敬信氏
快音化スピーカーがあれば、周囲がうるさくても気にならない!
快音化スピーカーがあれば、周囲がうるさくても気にならない!

 情報技術の急速な発展に伴い、音楽は気軽に持ち運べてどこでも楽しめる時代となりました。技術の進歩によって便利な世の中となった一方で、イヤホンやヘッドホンの音漏れによる騒音被害が社会問題化するなど、これまでは文明の発展が騒音の発展となっていました。

 長い歴史の中で騒音対策として減音や消音の研究も多数行われてきましたが、騒音問題は単に騒音量を減らせば解決するという単純なものではありません。個人差もありますが、耳障りと感じる騒音は、単なる音量だけでなく周波数や音色にも依存します。特に、ヘッドホンや部屋の壁を透過する音漏れの場合、小さな音でも周辺の人々は非常に耳障りに感じます。ではどうすればよいのか?

 解決のヒントは香りの分野にありました。「嫌な臭い」、皆さんはどうしますか? 消臭剤で臭いを吸収するというのが最有力かもしれませんが、芳香剤で香りをつけて嫌な臭いを気にならなくすることもできますよね。この考え方を音に応用できれば、騒音問題もさらに改善できるのではないかという着想で「快音化スピーカー」を提案しました。

 就寝中、枕元に置くだけで、その空間を快音空間に変えるようなコンセプトをベースに、最初の試作機を製作しました。周辺の騒音をマイクロホンで検知し特徴を解析した上で、スピーカーから騒音の特徴を聴覚的に覆い隠して快音に変える制御音を放射し、周囲を快音化する仕組みです。特に壁の薄い共同住宅や、多くの人が集まるカフェやホテルのロビーなど公共空間に設置すれば、たちまち騒音を快音に変えることができます。

騒音をピンポイントで快音化

 「よし、これでいけそうだ!」と社会実験を始めた途端、大きな壁が待ち構えていました。音は望まない人には「不要音(騒音)」ですが、望む人には「必要音」です。この快音化スピーカーの考え方だと、周辺の音はすべて覆い隠して快音に変えますので、「必要音」も当然別の快音に変わります。この壁を乗り越えるためには、騒音と感じる人だけを快音化できるよう、ピンポイントで音を集音・再生する技術が必要不可欠です。そこで新たに「光レーザーマイクロホン」と「極小領域オーディオスポット」を開発しました。

 光レーザーマイクロホンは、一般的なマイクロホンと異なり、騒音により誘発される周辺物体の振動を光レーザーによって読み取ることで、遠く離れた遠方の音でも光が届く限りピンポイントで集音できます。一方、極小領域オーディオスポットは、超音波の直進性を活用します。届けたい快音化用制御信号を複数に分割し、複数の超音波に乗せて空気中を伝播(でんぱ)させ、目的の場所にて各超音波が混ざりあうことで、快音化制御信号を生み出し、ピンポイントでの音の再生を実現します。

 これら技術を組み合わせ、光レーザーマイクロホン技術を用いて嫌な騒音だけを狙って集音した上で、快音化スピーカー技術を用いて嫌な騒音を覆い隠す快音用制御信号を生成し、最後に極小領域オーディオスポット技術を用いて、騒音で悩んでいる人にだけ快音用制御信号を放射することで、「減音」でもない「消音」でもない「快音」という第3の騒音対策手法を提案し、実用化に向けて着実に研究を推進しています。

 文明の発展が騒音の発展ではいけない。音環境を良くすることも、21世紀の大切な環境問題です。世の中のすべての音を心地よくしたいですね。

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 11月22日まで日本科学未来館(東京)にて「極小領域オーディオスポット」を一般公開しています。ぜひお立ち寄りください。

にしうら・たかのぶ

 1974年生まれ。奈良先端科学技術大学院大情報科学研究科博士後期課程修了。専門は音響工学。和歌山大システム工学部助手、立命館大情報理工学部助教授、同准教授を経て2014年より同教授。

【2017年07月12日掲載】