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もてなしの質、底上げ

松井本館若女将 松井もも加さん
松井本館若女将 松井 もも加さん
松井本館若女将 松井もも加さん

 京都市中心部の「田の字地区」にある創業83年の老舗旅館で宿泊客を温かく出迎え、若手とベテラン社員の間に立って職場をもり立てる。訪日観光客の増加で連日さまざまな言語が館内で飛び交う中、「ホテルにはない中小旅館の文化や価値を世界中の人に伝えたい」と情熱を燃やす。

 全面改装が完了した翌2014年、若女将(おかみ)に就いた。為替の円安を背景に訪日旅行客が増え始めた時期で、すぐに国内外の主要な宿泊予約サイトに登録し、インターネット対応の環境を整えた。新卒の学生や外国人留学生の社員採用にも乗り出すなどソフト面の改革を積極的に進めた。

 のれんの継承を意識し始めたのは高校1年の時。先代社長の父が急逝し、専業主婦だった母節子さんが女将として経営の最前線に立った。それまで父の方針で家庭と家業は切り分けられていたが、「命懸けで臨む母の姿を見て、初めて自分の人生の針路に旅館が出てきた」と振り返る。

 大学卒業後に入社したJTB西日本で法人営業を担い、団体旅行の添乗や予約の流れを学んだ。婚礼施設運営の中堅企業でも働き、接客面の人材教育哲学を吸収した。

 旅行業とサービス業で得た経験を生かし、若女将の就任後は新入社員1人ずつに先輩が付いて教育するメンター制度を導入した。「目で見て覚える」という旅館業務の習熟体系を転換し、おもてなしの質の底上げに努めた。客室やフロント、調理係など部門別の会議も毎月開催した。出席者全員に発言を促し、課題の共有やサービス改善につなげる仕組みをつくった。

 現在、新人の離職はほとんどなく、毎日1組以上のリピーターがいる。若女将が板に付き始めた今、旅館の畳の部屋で家族が笑顔で団らんし、絆を深め合う姿を見る度に心に誓う。

 「たった1泊でもお客さまにとっては特別な日。だからこそ妥協せず、もっと喜んでもらうために何をすればいいかをスタッフ全員で考えたい」

まつい・ももか 同志社大文学部卒。2009年、JTB西日本に入社。2年後に婚礼施設の運営会社に転職した。家業の旅館「松井本館」(京都市中京区)の改装を手伝い、14年1月に若女将に就任。休日は友人たちと旅行を楽しむ。中京区出身、在住。30歳。

【2016年08月14日掲載】