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インデックス

バブル後 雇用構造変化

第2部 ひずむ雇用(1) 関連
雇用をめぐる統計の推移。
法人企業統計と労働力調査より。労働分配率は年度。正社員と非正社員は、01年までは2月、02年以降は1〜3月の平均
 先の見えない不安定な状態から抜け出せない非正規社員、会社の業績は上向いても賃金が伸び悩む正社員。労働者が景気拡大の恩恵をいまひとつ実感できない背景には、雇用・賃金に対する不安や不満がある。その源流をたどれば、バブル崩壊後に起きた雇用構造の変化に突き当たる。
 日経連(現在は日本経団連に統合)が「新時代の『日本的経営』」と題する報告書をまとめたのは、平成不況真っただ中の1995年だった。企業は当時、収益を圧迫する3つの「過剰」に悩んでいた。設備と債務、そして雇用だ。
■非正規社員が増加
 報告書は、正社員中心の雇用慣行を見直し、専門職や一般職などを有期雇用に切り替えるよう提言した。その後の12年は報告書をなぞるような道筋を歩んだ。企業はリストラや採用抑制、非正規社員の活用を進め、政府も労働者派遣法の改正で派遣業種を広げた。
 95年から10年で正社員は1割以上減り、全産業の人件費も5兆4千億円減った。人件費削減の効果もあり、企業の業績は大きく上向いた。新光総合研究所の集計によると、東証一部上場企業(金融を除く)の07年3月期決算は、五期連続で過去最高の経常利益を挙げた。
■労働分配率は低下
 景気が拡大に転じる一方、その代償の一部は労働者に求められた。95年に457万円あった平均給与は10年で約20万円減り、企業がもうけをどれだけ労働者に還元したかの目安となる「労働分配率」も低下した。企業の賃金抑制姿勢は今も根強く、消費伸び悩みの一因とする指摘もある。
 違法な扱いを受けた非正規社員もいる。大津市の女性(33)は2年前、栗東市の派遣業者と契約したが、派遣先の工場では別の業者に指示された。2重派遣だった。時給は天引きされ、社会保険も未加入で放置された。「なんでこんな業者の利益のために働くのだろう」。改善されない待遇に疲れ果て、うつになった。
 不安定雇用を抜け出そうにも、現実は厳しい。国民生活白書によると、非正規社員からの転職者のうち正社員になれたのは04年で22・6%。今年4月の有効求人倍率も正社員は〇・58倍にとどまった。
 フルタイム労働者の中には、激務を強いられた人もいる。06年度に過労による脳・心臓疾患で労災認定された人は過去最多を記録し、過労死も147人に上った。
 京都市内のメーカーの技師だった女性(38)=向日市=は2年前、短納期と長時間の残業に追いつめられ、精神疾患と診断された。産業カウンセラーに転じた今、「考える余裕もない職場は健全といえない」と振り返る。
 これらの原因を自己責任の欠如と規制緩和の不徹底とする意見もある。昨年10月、厚労相の諮問機関である労働政策審議会分科会。労使が労働時間規制の緩和をめぐり激論を交わすなか、委員の派遣会社社長は「過労死に至るのは本人の自己管理だ」と発言した。
 政府の規制改革会議・労働タスクフォースは今年5月、「労働者の権利を強くしても労働者保護にはつながらない」と提言。解雇規制見直しや派遣期間の撤廃を促した。
 労働市場には、新たな課題も浮上している。団塊世代の退職と少子化で労働力人口は今後減少していく。規制緩和に突き進むのか、それとも見直すのか。日本の雇用は岐路に立っている。
【2007年6月26日掲載】