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「零細」倒産止まらず 上場企業と格差広がる

第1部 いざなぎ超え近景(2)
再起に向けて仕事に取り組む小林さん。だが、この作業場もいずれは出ていかなければならない(京都市右京区)
 「いまでも応援してくれる人がおる。仕事はやめられん」。静まりかえった京都市右京区の小林壽染工本社ビルの作業室。元経営者で職人でもある小林壽寛さん(五九)は、独自のべんがら染めでまっさらの布地を淡い紅色に染め上げていく。
 熱心に作業に取り組む小林さんだが、実は会社が一月末に倒産したばかり。商工ローンや消費者金融五社からの借金がかさみ、一億二千万円の負債を抱えて破産した。
 十五歳で故郷の岡山を離れ、京都で染の修行に打ち込んだ。当時、色と柄がよい着物はよく売れた。おう盛な需要を背景に朝から晩まで働き、独自の染技術を編み出して三十五歳で独立した。
 だが、順調だった売上高は和装需要の落ち込みとともに激減。運転資金が回らない。売り上げは下降をたどり赤字が続く。金を返すために繰り返す借金。泥沼に陥った。「これまでや」。技術はある。規模を縮小すればもう一度出直せる。破産の申請を決断した。
 苦労して建てた本社ビルも近く債権者に明け渡す。最後の事務処理をしながら「景気がいいのは大企業だけ。国も上層だけよければええんやろ」とこぼす小林さん。だが、その目はまだ輝いている。「裸になっても技術と信用がある。こんな時代でも、もう一度事業を起こしたい」と再起の決意を語った。
 倒産が止まらない。帝国データバンク京都支店によると、景気が回復しているはずの二〇〇六年に京都府の企業倒産(負債額一千万円以上)は、四百八十五件で過去最多となった。そのうち六割を個人企業が占めている現状。「景気回復が零細企業や個人事業者に波及していない状況で、〇七年も小口倒産は続く」(帝国データバンク)という。
 洛西地域で生活用品を製造販売していた個人事業者の男性(七三)は、二月に自己破産した。不況で取引先が倒産し、借金を重ねて切り抜けたが、すでに実施していた設備投資が重荷になった。結局、あおりをうけての連鎖倒産。負債は千八百万円に上った。
 男性は取引先から厳しい値下げ要請を突きつけられる零細企業の悲哀も十分に味わった。借金の苦しさも経験した。「底辺の企業が苦しんでいても日銀は金利を上げる。下々までに及ぶ本当の景気回復にはまだ七−八年かかる」
 京都新聞社の集計によると、京滋の上場企業五十社の〇七年三月期決算は、約八割の企業が増収増益を予測している。大企業が利益を積み重ねる一方で底辺であえぐ中小、零細企業。足元で想像以上に格差社会が広がりをみせる。今回の最長景気が「全員参加型でない」(浜矩子同志社大教授)といわれるゆえんだ。
 「事業を続けたい」。そんな厳しい状況でも失敗から立ち上がろうとしている経営者がいる。その「再チャレンジ」の志が報われる社会はいつ確立されるのだろうか。
【2007年3月22日掲載】