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細る市場 廃業の波 伝統の和装 後継もなく

第1部 いざなぎ超え近景(4)
工場内の人工の川で京友禅の反物を洗う職人。最盛期に70業者いた組合員が16業者にまで減った(京都市右京区西京極・広海本社)
 「染呉服製造卸が対前年比で18%減。今年の売り上げは三割は減るだろう。何とか乗り切らないと」。京友禅の蒸し・水洗い加工業、広海(京都市右京区西京極)の澁谷實社長(五三)は、一月の京都の繊維商社売り上げ動向の数字を見て、危機感をにじませる。
 景気回復を追い風に、製造業やサービス業をはじめ各業種で企業業績が上向く中、京都の伝統産業を代表する和装業界は苦境が続く。二〇〇六年は呉服販売大手の愛染蔵(大阪市)、たけうち(京都市下京区)が相次いで経営破たんした。展示会方式の販売が急激に悪化したためだったが、支払い能力を超える高額商品のローン販売など、強引な商法で消費者の信用低下を招いたことが背景にあった。
 たけうちとグループ十四社の売上高は約五百六十億円。和装市場全体の約一割が消失したとも言われる。室町の呉服卸次田(中京区)が連鎖倒産。たけうち関連の商品が環流し、友禅だけでなく西陣、丹後の大幅な減産など業界全体をその余波が襲った。
 昨秋以降、染工場などから広海に持ち込まれる反物の量は二、三割減ったという。本社工場では慣れた手つきの職人が、手描きや型で染められた反物を蒸し機に入れ、色を定着させる作業をこなす。別の作業場では蒸し終わった反物が人工の川に浸され、余分な染料やのりが洗い流される。
 「手作業が多いので二十反が十五反になっても手間は変わらない」。受注が減っても効率化は簡単ではない。着物づくりに欠かせない仕上げ工程だが、市場の縮小とともに同業者の多くが廃業。同社は、着物の種類や色柄に応じて糸の内部まで色を浸透させる独自の蒸し技術が評価され、取引先を拡大してきた。バブルのころは年商五億円を誇ったが、いまは事業の縮小均衡を余儀なくされている。
 分業制からなる着物づくりは、技術があれば七十歳でも続けられる業種だが、それも仕事があってのこと。後継者育成をあきらめて引退する職人も多い。絞り染め専門の鈴木染工所(同区)は三月末で廃業を決めた。兄弟四人で四十年来続けてきたが、今年に入りほとんど仕事がなくなった。「食べていけないんだから」。長男で伝統工芸士の鈴木嘉久さん(六二)は冷静に受け止める。
 和装卸大手のウライ(下京区)は、破たんしたたけうちへの売上債権約十億円が不良債権化。〇七年三月期の業績はジャスダック上場七年目で初の赤字転落を見込む。裏井紳介社長は「仮に市場規模は四千億円になっても、着物を着たい人に、ニーズに合った商品を買ってもらうしかない」と自戒する。来期は売上高が横ばいでも利益が出る構造に事業再編する方針。大幅な販売経費削減、アルバイトや契約社員ら三十数人の削減を図る。ここでも傷口は予想以上に大きい。
【2007年3月24日掲載】