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消耗 過当競争 収入を直撃

第2部 ひずむ雇用(3)
激しい競争の中、運賃設定や人材確保に悩むタクシー業界。今日も客を求めて列をなす(京都市下京区・JR京都駅前)
 タクシー中堅の京聯自動車(京都市南区)は今年4月、市内最安が売りだった「小型初乗り570円」の看板を降ろした。新料金は640円。5年前と同じだ。「運転手も会社も値下げ合戦に疲れた」。横山末松社長はそう振り返る。
 2002年の規制緩和でタクシーは地域ごとの台数制限がなくなり、自由に車両を増やせるようになった。同業者が増車や運賃値下げに走り、競争は厳しさを増した。同社も対抗するため、値下げの道を選んだ。
 結果は裏目に出た。無線配車は増えたが、売り上げの伸びはわずか。運転手は値下げによる収入減を避けるために客を求めて走り回り、心身をすり減らした。そこに燃料費の高騰が追い打ちをかけた。
 「労使ともにマイナス面が大きい」。横山社長は今年2月、従業員に値上げを提案した。賛成は約7割。同社は消耗戦からの離脱を決めた。
 値下げなどのサービス競争激化は、府内の運転手の給料を直撃した。年収は274万円と、規制緩和前から10万円減った。府内の全産業平均の半分でしかない。
 府内の求人倍率が1倍近い今、賃金の安い職業に集まる人は少ない。関西タクシー(山科区)は昨春、運転手が足りないため、車両数を15%減らした。「若い人がタクシー業界に入ってこない」。同社の仁ノ岡栄治取締役はそう嘆く。3月の国土交通省の調査によると、タクシー・ハイヤー業者の約九割が人不足に悩む。
 規制緩和の恩恵で成長した派遣業界。ここでもまた、過当競争の影響が表面化しつつある。
 「今なら入社祝い金10万円ついてくる」  ホームページを開くと、大きめの黄色い文字に目がとまる。京都府や兵庫県の工場に派遣社員を送り込む人材派遣会社(大阪市)。役員は「こうでもしないと人が集まらない」と打ち明ける。
 派遣先の工場は生産拡大で人手が足りない。だが、景気回復で好条件の求人が増えた分、スタッフの確保が難しくなってきた。
 「この時給では人が来ない」。派遣先に値上げを求めても、取り合ってもらえない。役員は「派遣社員を社会保険に加入させず、料金をダンピングする同業者もいる。違法だが、黙認する派遣先も多い」とこぼす。
 政府が進めた派遣業種の規制緩和に伴い、派遣市場は拡大を続けた。参入業者も増えたが、求人の少ない不況期は低い賃金でも人が集まった。
 それも景気拡大で一変した。巨額の宣伝費で人を集める大手が派遣料金を上げる一方、中小零細や競争が激しい製造業向け派遣会社は、人件費を抑えたい派遣先と人材難の間で苦境に立つ。
 派遣社員の技能を向上させることで差別化する会社もある。技術者派遣を手がけるジェイ・エス・エル(下京区)。スタッフの研修に時間と費用をかけることで、要求される技術は高い分、実入りも多い仕事を確保する。齊藤公男社長は「安かろう悪かろうはもう限界。派遣先も派遣元も考え直す時期にきた」と警鐘を鳴らす。
【2007年6月28日掲載】