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専門知識 分かりやすく

仏教書出版社「法藏館」編集長 戸城三千代さん
仏教書出版社「法藏館」編集長 戸城三千代さん

 「仏教の素人」という入社当時の立ち位置を大切にしている。編集者のキャリアは12年。だが「専門的な知識を書くと、一般読者は理解しにくい。堅いと思われがちな仏教を分かりやすく『翻訳』したい」と語る。

 浄土真宗を中心に法話や仏教史、哲学などの本を発行する法藏館。今年、創業400年という長い歴史の中で初の女性編集長になった。

 立命館大では日本文学を専攻。研究者を志したが「新しい視点を生む論文がどうしても苦手」で、博士論文を提出せず退学した。新たな道を模索した時、学生時代に冊子編集のアルバイトをした法藏館が頭に浮かんだ。「何か仕事をさせてほしい」と手紙を送り、1999年に契約社員として採用された。

 これまでに手がけた書籍は約90点に上る。鮮明に記憶しているのは、最初に担当した「仏教社会福祉辞典」だ。福祉の用語に仏教の精神を当てはめる趣旨だったが、初稿を読むと専門知識ばかり。「素人」の戸城さんには理解できなかった。

 「何の辞典なのか、よく分かりません」。筆者の仏教学や福祉の専門家に直言をぶつけ、7年かけてほぼ全文を書き換えた。「非行」の項目では「少年に『悪』の烙印(らくいん)を押すのでなく、規範を逸脱した行動を取るのはなぜか、何を大人に訴えているのか考えよう」と仏教の視点を端的につづった。

 部員11人を率いる立場だが、なるべく指示を出さないよう心がけている。「あなたはどう思う?」と部員に思考を促し、それぞれの個性を本に反映させる。「一人一人が意見を出し、彩りのある出版社にしたい」という。

 3月に長男を授かった。「人は生まれてくるだけで、人に幸せをもたらす」という仏教の精神を今、かみしめている。「仏教の考え方は人生を豊かにしてくれる。出版人として、多くの人にその理念を伝えていきたい」と考えている。

としろ・みちよ 立命館大大学院文学研究科博士課程単位取得。1999年に法藏館に入社し、2008年から編集長。今年3月に長男を出産し、育児休暇を経て9月に復帰した。趣味は能、狂言の鑑賞と稽古。香川県三豊市出身。宇治市在住。41歳。

【2011年10月16日掲載】