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ボルトに吸い付く精度

KTC本社工場 京都府久御山町
工具部品の加工作業。人の手に頼る工程も多い(京都府久御山町佐山新開地)。
 熱さ一千度。真っ赤になった特殊鋼材の上に鉄柱が垂直に落下する。「熱間鍛造」という特殊工法によって鋼材に加わる圧力は約一千トン。「コーン」と耳をつんざくようなごう音が響くと、金型内の鋼材はボルトにかぶせたソケットを回す駆動工具「ラチェットハンドル」の原型となる。
 形や大きさがほぼ同じ大量の石の中に入れてかき混ぜ、じっくりと磨き上げる。最後にメッキを施すと、ピカピカに仕上がる。内部には特殊なギアなどを組み込み、締め付ける力を強くする。
 ボルトやナットを締めるスパナやレンチなど工具の種類は幅広い。KTC(京都機械工具)の工具製品は約一万二千品目に上る。製品に要求する精度は百分の一の世界。精度が高いほど工具をボルトにあてた瞬間、ぴったりと吸い付いたような感覚が使い手に伝わる。駆動工具のハンドルを軽く回すだけで手の力が十分に前へと伝わり、ネジなどが簡単に回転する。しかし粗悪品の場合は工具がネジの溝を上滑りし、逆に人の力が手前に戻ってしまうという。
 一九三〇年代、戦闘機・零戦の整備用工具を納めていた技術者三人が五〇年に京都市南区で会社を設立。トヨタ車向けの搭載用工具を受注したのを皮切りにモータリゼーションの波に乗り、急成長した。近年は自動車搭載用工具の部品点数が減ったため生産本数は最盛期の半分程度になったが、現在、自動車やオートバイの整備用市場で七割のシェアを握る。
 「プロに対して本物を提供するには品質が最も重要。整備作業にあたるメカニックの安全性と作業の快適性、能率・効率の三つを追求している」と宇城邦英社長は強調する。

品質にこだわり

駆動工具のラチェットハンドル。グッドデザイン賞を受賞した
 品質を確保するため、生産設備や金型は大半を自前で製造している。材料もオリジナルで、粗鋼メーカーに特注している。技術継承に力を入れていることから、退職者でも気軽に現場を訪れ、気づいたことを指導する自由な雰囲気があるという。
 さらに宇城社長は、地道な品質へのこだわりを顧客に理解してもらう必要性を感じ、二〇〇三年四月に本社工場内にものづくり技術館を開設した。今では京都を代表する企業ミュージアムとなり、これまでの見学者はすでに二万五千人を超えた。室内には約三千本の工具を展示しているほか、工具や自社の歴史などを紹介している。屋上には庭園を設け、環境対策もアピールしている。
 宇城社長は「モノが大量にある時代にお客さんから選ばれるためには、ものづくりへの熱い思いを知ってもらうことが大切。使い手と作り手が製品に対する価値観を共有できれば、それが付加価値になり、ブランドの強化につながる」と話す。
<メモ>  KTC本社工場 1979年に完成した。敷地面積は3万9千平方メートル。社員は約250人。KTCの主力工場で、年間出荷額は40−50億円。敷地内にあるKTCものづくり技術館は創業50周年を記念し、2003年4月にオープンした。見学は無料。問い合わせは同館TEL0774(46)3959へ。

【2008年7月21日掲載】