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人工歯 支える熟練の技

滋賀松風 甲賀市信楽町黄瀬
人工歯の成型装置。工場内に新旧5台あり、ラインを流れる金型にプレスや加熱を繰り返す

 機械がうなりを上げ、シンナー臭が漂う。室内一面を埋める製造ラインを、歯の金型が次々に流れていく。出来上がった大豆ほどの大きさの人工歯は、一つずつ形状や大きさ、色合いが異なり、4460通りにも上る。
 セラミックスにアクリル素材を配合した人工歯「レジン歯」を生産する。見た目がきれいで硬さも天然の歯に近く、親会社の松風が1945年に初めて国産化した。現在の生産量は前歯や犬歯、臼歯を含め月330万本。成人1人の歯の数が標準の28本とすると、年間141万人分の歯をつくっている計算だ。
 製造工程はざっと六つ。まず歯の原料となる有機化合物のメタクリル酸メチルなどに着色する。同一の歯でも色は純白から黄みがかった色まで15種類に及び、色味の判定は今も機械ではなく人間の勘に頼る。坂本寿秀技術顧問は「熟練者じゃないと微妙な色の違いや調合割合を見極められない」と説明する。
 次に原料の粉や液体を機械で練り合わせ、金型に押し込んで歯を成型する。一連の工程は自動化されており、金型の上に置いた原料を機械がプレスし、加熱する。完成した歯の周囲には「バリ」と呼ばれる余分な出っ張りが残るため、砥石(といし)とともに乾燥機のような槽に入れて回転させ、ピカピカに研磨する。
 最終の検査工程では従業員20人が机に向かい、歯を1個ずつ手に取ってきずや汚れがないか黙々と調べる。表面に黒い点が残った不良判定の歯に目を凝らしてみたが、すぐに見分けるのは難しい。中嶋義和社長は「わずかな差異は機械で判別できない。高い安全性が求められる製品のため異変は見逃せず、根気がいる作業」と話す。
 工場は旧信楽町が外部から誘致した企業の第1号だ。農村の工場で生まれた歯は、全国をはじめ欧米やアジアにも届けられ、人々の口の中で輝きを放っている。

メモ

硬質レジン歯の主力製品。形状や大きさ、色の違いによって4460通りもある
 滋賀松風 歯科材料メーカーの松風(京都市東山区)の100%出資子会社。1973年12月に人工歯製造の専門工場として操業を始めた。人工歯の単一生産拠点としては世界最大級の規模。敷地面積1万600平方メートル。従業員84人。

【2010年6月14日掲載】