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最高級の白生地 柔らか風合い 洋装にも

(1)浜ちりめん(長浜市)
地下水を掛け、横糸1メートルに2千回以上も撚りをかける。精錬には琵琶湖の水を使い、浜ちりめんには豊富な水が欠かせない(長浜市神照町・南久ちりめん)

 絹織物の表面にある細かい凹凸模様の「しぼ」が、柔らかい風合いと高い質感を生み出す。最高級の白生地といわれ、主に京友禅や加賀友禅の素材として出荷され、留袖(とめそで)や訪問着などフォーマルな着物に仕上がる。和装離れも進む中、優れた風合いを生かして、ドレスなど洋装への活用も模索している。

 「機屋(はたや)」と呼ばれる織り工場は、長浜市一帯に19社。40年前の6分の1にまで減った。計約8万反(1反=約12メートル)を出荷する。

 産地規模の小ささは、逆に強みでもある。品質を誇る浜ちりめんの工程は、生糸の仕入れから糸繰り、織りまで、社内で一貫生産する。工場外で行うのは共同加工場での精錬だけだ。他産地では織りの外注など分業も多いが、長浜では生地の工夫やトラブル解決も社内ですぐに行えるため「友禅に求められる高いレベルの品質競争がやりやすい環境にある。企業ごとに得手があり、それをお互いが認め合っている」(長谷幸治・浜縮緬(ちりめん)工業協同組合理事長)という。

 中でも、各工場がしぼを表すのに欠かせない横糸を作る「撚(ねん)糸」技術。1メートルあたり2千〜4千回も撚(よ)る。撚った回数が異なる糸と合体させたり、撚る向きを途中で反転させることで、完成時の風合いを調整する。この組み合わせが何万通りにもなる。

 風合いは、洋装にも生かされている。組合青年部の有志5人で一昨年に設立した「新暁(しんあかつき)会」は滋賀県東北部工業技術センター(同市)の支援を受け、洋装や寝具メーカーと協力しながら、綿や金銀糸、ヨシ素材も使い、ジャケットやクッション、小物を試作する。

 「洋装化」の先がけは、機屋の傍ら、デザイナーと組んでウエディングドレスの受注販売に取り組む吉田和生さん(53)=同市口分田町=。「白生地のドレスは染め直してフォーマルドレスにもなる」と、消費者のこだわりにアピールする。

 浜ちりめんは昨秋、びわ湖ホール(大津市)声楽アンサンブルのドレスにも採用された。公演で3度着た歌手の森季子さんは「温かくて滑らかで、『包まれている』という安心感がある。舞台のライトに生える光沢もすてきです」と、独特の質感を気に入る。

 歌手のドレスをデザインした成安造形大の早川雅明名誉教授は「凹凸の風合いは、浜ちりめんの強み。洋装に合う広幅の織機導入など、最終消費者を意識した産地の努力も必要だろう」と話す。

<データ>
 浜ちりめんは、1752(宝暦2)年以前に京都から技術を導入したのが起源。生産ピークは124社があった1972(昭和47)年の185万反。県東北部工業技術センターは、浜ちり技術指導のため前身が発足して本年度が100周年。

<ぷらすα> 熱心な研究姿勢 好感

浜ちりめんのドレス。絹織物の質感に、着用したびわ湖ホールの歌手も「包まれている安心感がある」
 それぞれの機屋が持つ技術への自負とともに、ライバル同士で気さくに情報交換する研究熱心な姿勢に好感を持った。協同組合や県工業技術センターの身近な存在も、こうした雰囲気を醸している。250年を超える歴史。家族経営で一貫生産をしてきた技術の蓄積からか、機械操作や仕上がりの表現には「さじ加減」「風合い」といった数値化されない感覚的な言葉も飛び交う。絶え間ない継承とともに、より一般化する努力も、洋装化など消費者向けの展開に必要だろう。

【2010.04.11掲載】