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豊かな水、土で育つ 品種開発、よりおいしく

(3)近江米(滋賀県内全域)
「秋の詩」の苗と有機肥料で田植えの準備をする小菅さん。芹川水系の水と土が、おいしい米をはぐくむ(多賀町久徳)

 大型連休の前後、滋賀県内に約3万3千ヘクタールある水田で、一斉に田植えが始まった。近江米は、ふっくら炊きあげた主食のご飯としてだけでなく、酒、すし、炊き込み、もちなど湖国各地の伝統食にも姿を変える。

 近江米は、県内で生産する米の総称。化学肥料や農薬の使用料を通常の半分以下に抑えた「環境こだわり米」が全体の3分の1を占め、県は「安心・安全・おいしい」を近江米の特色に掲げる。だが、近年は温暖化による品質への影響も大きく、研究機関とJA、農家が一体で、品質向上や消費拡大の取り組みが進んでいる。

 傷がなく、育ちの良い「一等米」の比率が今年産米で90%になるよう、県やJAグループでつくる近江米振興協会が目標に掲げる。12年前の水準だが、2005年には63%にまで落ち込んだ。コシヒカリなど早生(わせ)品種が実る7月末〜8月初めに高温が続いた影響だ。県は、収穫期が2週遅く、味の良い県独自品種「秋の詩(うた)」への転換を進めて高温期を避けるなどし、昨年産では79%にまで回復した。

 多賀大社近くの芹川べりで、水田2・7ヘクタールを手がける多賀町久徳の専業農家小菅一男さん(65)は、「秋の詩」の食味を競う近江米振興協会主催の第1回コンクールで昨年、最優秀賞を獲得した。

 「豊かな水と土壌。芹川の恵みのおかげ」と控えめだが、毎朝の「田回り」では水や生育の様子を注意深く見守り、除草剤を使わずあぜの雑草を刈る細かい努力を積み重ねる。彦根市職員当時の兼業も含むと、半世紀近い農業だが、「作業に台本は無い。田んぼと『しゃべる』感覚を大事にしています」。

 施肥や草刈り、病虫害予防、水の管理…。農家の勘と技術を支えているのが、JAや県の営農指導だ。

 県の農業技術振興センター(近江八幡市安土町)では、稲の標準的な生育を「作況情報」として公表したり、稲をさまざまな条件で育てたりし、栽培技術や新しい品種の開発に取り組んでいる。

 外気より常に2度高い温室「高温耐性検定ハウス」では200種類の稲を育て、高温に強いものをより分ける。1年に3回収穫できる「世代促進温室」も使い、新しい品種づくりを10年かけて進める。今は2013年のデビューに向け、早生でも高温に強く、食味の良い、新しい近江米を開発中だ。

<メモ>
 近江(滋賀県)は、16世紀末の太閤検地で陸奥(東北4県)に次ぐ77万5千石(11・6万トン)を生産。現在の収穫量は17・6万トンで全都道府県中18位だが、耕地の水田率は92%で2位、集落営農グループ数は825で1位を誇る。

<ぷらすα> 減農薬にこだわり

年中ボイラーで暖める滋賀県農業技術振興センターの「世代促進温室」では、新しい品種や系統の米が年に3回育つ(近江八幡市安土町大中)

 水田の風景も米粒も、見た目の区別は付きにくい。でも、ご飯をかみしめると、違いは分かる。

 主食米の品種開発をする府県は、近畿で滋賀だけ。減農薬・化学肥料にこだわり、この地の土と水で育つオリジナルの米は、湖国ブランドの代表格だ。

 県農業技術振興センターの新品種開発は、世に出るまで10年かかる。

 何万本もの苗を育て、その中から選抜を繰り返す。加工や流通での工夫がいっそう進めば、消費拡大も難しくはないだろう。

【2010.05.16掲載】