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豪華な総合工芸品 内装や産業観光に挑戦

(4)彦根仏壇(湖東地域)
豪華な大型仏壇のほか、仏壇技術を生かしたインテリア商品の開発に取り組む井上社長(彦根市・井上仏壇店)

 扉を開けると、「極楽浄土」の世界が現れる。金箔(きんぱく)が後光のように光沢を放ち、蒔絵(まきえ)で描いた花やチョウがたわむれる。7工程の職人の手仕事により組み上がる彦根仏壇。大きく華やかな総合工芸品は、1千万円を超す大作も数多い。

 ただ、景況は厳しい。滋賀県の調査で、生産額は2008年度に30億円と、バブル期前後のピーク時から半減した。戦後65年がたって仏壇が家庭に行き渡ったことに加え、仏間のない住宅が増え、業界として構造的な不況に陥っている。

 彦根仏壇事業協同組合の寺村勇理事長(58)は「仏壇作りは平和になった江戸期に、武具職人が業種転換して始まったが、今はそれに近い転機にある」という。組合として、他産地に先がけて東京で展示会を開き、インターネット販売にも乗り出しているが、手詰まり感は否めない。

 苦境のなか、新商品の開発に光明を見いだす動きもある。

 昨年5月、米ニューヨークで日本貿易振興機構が開いた家具見本市。井上仏壇店(彦根市)の井上昌一社長(42)は確かな手応えを得ていた。急な出展決定で商品開発は2カ月だったが、黒い漆と金の金具の照明「竹」、蒔絵の壁掛け「ポッピー」など彦根仏壇の技術を生かした試作品が、商談をいくつも呼び込んだからだ。

 これを受け、本格的な新商品開発に向けて今年2月にプロジェクトを開始。グッドデザイン賞受賞のデザイナーと組み、県の助成金も得て3年後の量産化を目指す。デザインの洗練、生産体制の確立と課題は多いが、「木製で漆を塗る仏壇技術を転用した実用的なインテリアを」と試作品作りを進め「仏壇販売に並ぶ年間1億円の事業にしたい」と意気込む。

 職人たちが連携する例もある。

 若手職人8人が4年前に結成した「江州彦根七職家」は仏壇店を通さず、オーダーメード仏壇、古い仏壇を直す「お洗濯」の直接受注を図る。仏壇店の下請け仕事が多くあったころは職人同士が結びつく必要はなかった。だが、厳しい景況や中国産仏壇の増加で受注が激減し、仕事づくりに乗り出さざるを得なかった。蒔絵師の舟越丈二(じょうじ)代表(39)は「仕事がなく、職人は減るばかり。このままでは私たちが最後の世代になる」と産地の空洞化に危機感を募らせる。

 2月、仏壇作りの一部を観光客が体験する「ほんまもん体験教室」を始めた。舟越さんは「教室を新事業として軌道に乗せるとともに、手仕事の仏壇技術の良さを広め、仏壇を買う未来のお客づくりにもつなげたい」という。「産業観光」という新たな切り口で、活動の広がりを模索する。

<データ>
 江戸期、武具職人が仏壇製造に転向したのが始まりとされ、生産地は彦根市を中心とする湖東地域。1975年に「仏壇・仏具」の主要産地では初めて国の伝統的工芸品に指定された。県の統計では生産額ピークは91年の56億6千万円。現在も生産地としてトップの京仏具・仏壇に次ぐ規模。

<ぷらすα>業界全体で危機対応を

新たな仕事づくりで連携する「江州彦根七職家」の職人。土日祝日には観光施設で実演を披露する(彦根市・夢京橋明かり館)

 仏壇業界は生き残るかどうかの瀬戸際という。住宅事情の変化で国内需要は右肩下がりで、海外市場向けが難しい商品特性もあり、伝統的工芸品産業振興協会(東京都)は「ブランドイメージの高い京仏具・仏壇を除くと、どこも厳しい」と産地消滅の可能性を指摘する。彦根仏壇事業協同組合でも、組合加盟の7工程の職人すべてが1けた台になるなど危機が迫る。

 だが、一部若手の取り組みは見られるものの、売り手の仏壇店、作り手の職人の垣根もあり、業界全体の動きにはなっていない。伝統への誇りを共有し、手を取り合う動きが広がってもいいように思う。

【2010.05.23掲載】