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医療用から一般用まで 「人対人」販売に活路

(5)製薬業(甲賀市など)
1商品ずつ箱詰めされるトローチ。シェアは全国トップクラスだ(甲賀市・日新薬品工業)

 張り巡らされたライン上を錠剤が次々と流れては箱詰めされていく。1926年に操業した甲賀市田堵野の日新薬品工業はトローチや栄養ドリンク、風邪薬など幅広い商品を生産する。工場は大部分の行程が自動化され、社員は製品チェックに目を光らせる。

 同社の周辺では製薬会社の看板や社屋が目につく。製薬業は滋賀の8大地場産業の一つで甲賀、日野地域を中心に発展してきた。

 地場企業19社で組織する県製薬工業協同組合(甲賀市)によると、人や物が行き交う交通の要衝として恵まれた地理的条件を生かし、販売員が家庭に薬を売り歩く配置薬業が起こり、戦後の近代化とともに製薬業に転換した企業が多いという。

 医薬品は病院などで使用される「医療用」と、薬局やドラッグストアで販売される「一般用」の2種類がある。19社のうち、2社が医療用を、17社が一般用を製造している。

 生活に欠かせない薬は景気の影響を受けにくい面もある。湖国に誘致された製薬会社と同様、地場企業の生産額は毎年ほぼ横ばいを維持。08年度は前年度比3・5%増の305億6千万円だった。

 医療用では新薬の特許満了後に販売される同品質で安価のジェネリック医薬品が需要を伸ばしているが、一般用ではドラッグストアの店舗網が広がる中、製薬会社は厳しい価格競争を強いられている。

 同組合の土屋勝専務理事(62)は「各企業は利益が見込まれる得意分野に特化する傾向にある。企業規模に応じた新製品の開発や販路拡大をどう進めるかが課題」と話す。

 日新薬品工業は5年前から販売業者の高齢化などで需要が縮小する配置薬分野にあえて乗り出した。背景にあるのは薬事法改正だ。配置薬業者に専門資格が必要となり、廃業する業者が出ると予想。若手社員が資格を取得し、全国各地の家庭を訪ねている。

 大北正人社長(52)は「少子高齢化で一般薬の需要が増えている。ネット販売など便利になっても、高齢者は症状にあう適切な薬がわかる『人対人』の販売方式を選んでくれる」と期待し、「流行は追わない。他社がしない分野にこそチャンスがある」と将来を見据える。

<データ>
 滋賀の薬は1600年代に東海道草津宿で売られた胃腸薬「和中散」や中山道鳥居本で売られた「赤玉神教丸」、1710年代以降、日野商人が全国に売り歩いた「萬病感應丸」の流れをくむ。地場企業の生産額は約306億円(2008年)。誘致企業も含めると1959億円(同)。厚労省によると、産地別では全国13位という。

<ぷらすα>伝統立脚、時代にも対応

滋賀で生産される一般薬の一部。自社ブランドを始め、他社へのOEM供給品などさまざまな商品展開を図っている(日新薬品工業)

 滋賀の製薬業には昔ながらの製法を引き継ぐ伝統的イメージを感じていたが、ジェネリック医薬品製造や他社ブランド製品のOEM生産など、時代に対応した生産体制が進んでいることに驚いた。

 江戸時代に誕生した赤玉神教丸と萬病感應丸は今も売られ、現代に通じる確かな品質にも感心した。伝統に立脚しながらも時代の流れを柔軟に受け入れる姿勢こそ、滋賀の製薬業の強みと感じた。

 日常よく使う薬には県内で製造された商品が意外と多い。印刷されている滋賀のメーカー名を見ると、薬がより身近に感じられるかも。

【2010.08.08掲載】