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体の線を美しく 下着縫う技術、新分野へ

(6)彦根ファンデーション(彦根市など)
伸びやすい生地を扱う技術を生かして、サイクルジャージーの縫製を手がける。立体的な造形もお手のものだ(彦根市・ファイバー)

 ファンデーションとは、体の線を美しく整える女性用下着。ブラジャーやガードル、コルセットのことだ。異なる素材の縫い合わせ、立体的な造形、体を補整する機能…。縫う技術の高さを生かして、従来の下着だけでなく、新分野への展開を試みている。

 戦前まで足袋を多く生産していた彦根市。戦後、洋装化の影響で需要が減り、ミシンを扱える女性の新たな働き口として大手下着メーカーの下請け工場に転換したのが、彦根ファンデーションの始まりだという。

 海外産の低価格商品が国内で出回り、需要は減っているが、技術は脈々と伝わる。現在、ひこね繊維協同組合には16社が加盟。従業員数10〜20人の企業が大半だが、デザインや企画をすぐ現場に生かせ、小回りのきく「多品種少ロット生産」の強みを生かす。

 アサヒ産業(彦根市下稲葉町)は、通信販売向け下着メーカーのOEM(委託生産)に加え、3年前から、インターネット受注の生産を手がける。女性向けだけでなく、ファッション性の高い男性用ブラジャーの注文も多い。色とりどりの糸や布、レースを並べ、ベテランの縫い子さんが仕様書を確認しながらミシンを操る。

 7月には、県の補助を受け、滋賀医科大と共同で「骨盤底筋(こつばんていきん)」を支えるガードルの開発に乗り出した。出産や加齢で多くの女性に起きやすくなる尿漏れを、筋肉に適度な圧力を加えることで防ぐ。シリコーンの研究者と共に、滑らない生地を使う「締め付け感がないのに、ずれない」という楽なブラジャーの開発も進める予定だ。

 川瀬友康社長(50)は「ニッチ(すき間)と思われていた医療や健康向け下着の需要は、確実にある。いつも美しくありたいという女性の願いに応えたい」と話す。

 ファイバー(同市平田町)はサイクルジャージーを手がける。ガードルを専門に作っていたが、納入先の大手スーパーが9年前に破綻(たん)し、転換を余儀なくされた。自転車ブームを追い風に、当初は1カ月に10〜20枚だった注文が今では3千枚近くにまで伸びた。

 だが、注文はチーム単位で、大半が5枚、10枚といった少量だ。年を追うごとに素材は薄く、柔らかくなり、立体的な曲面の部分も増えてきた。それをいかにずれないように縫うか。技術の力を、磯嶋裕之社長(38)はこう表現する。「うちで縫えるものは何でも、頭のてっぺんから爪先の物まで断らずに引き受けてきた。だからこそ、波はあっても、何かをきっかけにこうして仕事を続けてこられたのかもしれませんね」。

<データ>
 1950年代初頭に大手下着メーカーの工場が立地。対米輸出の拡大で、当時は全国のブラジャー生産量の7割を彦根産が占めた。その後の輸出規制、近年の外国産の流通で生産が縮小。現在の産地生産額は年約30億円で10年前の55%程度。

<ぷらすα>地道な努力で再興を

ネット注文を受けた男性用ブラジャーを熟練の技術で縫う。色とりどりのミシン糸や生地が並ぶ(彦根市・アサヒ産業)

 取材で「縫製工場の従業員だった母が会社を起こした」「経験30年の縫い子さん」といった話を聞き、技術の確かな継承を実感した。

 だが、ミシンを使える新卒者が減り、各企業で中国人研修生の雇用が増えている。協同組合は、小学校での縫製の出張授業を昨年から始めた。地道な努力が、産地の魅力に再び光を当てる「彦根ブランド」につながることを期待したい。

【2010.08.22掲載】