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江戸を拠点に普及 鍼灸の効能 支える誇り

(8)伊吹もぐさ(湖北地域)
2階に投入口がある大きな「唐箕」から精製されて取り出されるもぐさ(長浜市・山正)

 もぐさは仏教とともに中国から伝来したとされる。豊富な薬草のあった米原市の伊吹山は織田信長が適地としてポルトガルの宣教師に薬草園を開かせ、山の名が全国に知られた。自生の薬草の中にヨモギも含まれ、もぐさは早くから製造されていたとみられる。

 ヨモギの葉の裏に薄くはえた「毛」と呼ぶ繊維だけを集める。摘み取って乾燥させたヨモギを石臼でひき、横長の筒状の「長どおし」で不純物を取り除く、さらに円筒状の「唐箕」で精製して仕上げられる。

 同市柏原の中山道柏原宿にある寛文元(1661)年創業の亀屋佐京商店。広報担当の松浦達修さん(41)によると、六代目七兵衛(1782−1850)が多様な人と情報が集積する江戸の遊郭・吉原を拠点に普及させる際に、「伊吹もぐさ」の名を使っていたという。

 松浦さんは「伊吹山で良いヨモギが採れ、ふもとの柏原宿で売ったことが重要。来られた方々は、ここが伊吹のもぐさで有名な宿場と言い、買われたはず」という。宿場では唯一の商店となったが、「今までも、これからも良いものをつくるしかない」と伝統を守る。

 「戦後の復興期に需要が伸び、旧浅井町だけでも約20店の販売業者がありました」と懐かしむのは「江州伊吹もぐさ製造組合」代表世話人の押谷仁一さん(72)。もぐさ卸業も行う長浜市八幡東町の押谷商事を経営する。

 県内の取扱業者が減る中、押谷さんは「最大手のセネファが1976年に販売した『せんねん灸』が爆発的に売れ、一般家庭にも普及し業界全体を下支えした」と話す。

 最近では、癒やしという観点から、鍼灸(しんきゅう)が見直されているという。同市三田町の「山正」では、6年前に新工場と本社を建設したのを機に、鍼灸師を目指す学生の見学を積極的に受け入れている。押谷小助社長(51)は「製造工程を見てもらうことで理解が深まった。お灸の需要はこれからも伸びると思う」と期待する。

 都市部には鍼灸院も増えてきたが、高性能の火災報知器が感知して作動するなどで「お灸を使うのは全体の3割ほどにとどまる」と話す押谷社長は、「伝統の火を使うお灸にこだわりながら需要に見合う商品を考えたい」と意欲をみせる。

(原則として第2、第4日曜日に掲載します)

<データ>
 江州伊吹もぐさ製造組合には、県内で製造・販売を行う8社のうち6社が加盟。大手が扱う原材料は中国産が7割で、国産は3割。その多くが県外産という。乾燥したヨモギから取れる繊維は、高級品だと総量の4%前後とわずか。近年は残りを畜産飼料などに活用している社もある。

<ぷらすα>肩こりで利用経験も

火がつけられるもぐさ。健康ブームの中で業界関係者は需要の高まりを期待する
 お灸はもぐさを素肌にのせる「直接灸」と、台紙などのうえに小さな棒状のもぐさを着けた台座灸や鍼(はり)のうえにもぐさをつける灸頭鍼などの「間接灸」に大別される。

 この中で、個人的になじみ深いのが台座灸。一時期、肩こりで利用していた経験がある。灸頭鍼は、鍼そのものが未経験ながら「試してみようか」と関心がある。だが、直接灸は取材でも勧められ「効きそう」とは思うが、やけどに対する怖さと痛さを想像すると「試してみたい」と思えなかった。

【2010.09.26掲載】