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個性競う蔵元 若い作り手に熱い心

(9)近江の地酒(滋賀県内全域)
てんびん搾りに使う木製の道具を点検する上原さん。「手間をかけただけ、いいものができる」と語る(高島市新旭町)

 米どころとして知られる滋賀県。県の象徴である琵琶湖には清流が流れ込み、良質な日本酒を生む条件が整っている。

 高島市新旭町の「上原酒造」には日本酒の命となる水がこんこんと、わき出ていた。上原酒造は古来の製法「山廃仕込み」や、もろみ袋を木製の道具でしぼる「てんびん搾り」にこだわる。蔵元の上原績さん(45)は「効率重視の時代に逆行した製法。だからこそ、大手には出せない、オリジナルな味が生まれる」と自負する。

 滋賀県酒造組合の組合員数は43社で、10年前と比べて16社減少した。後継者不足や日本酒消費量の低迷などが原因という。同組合の宮武嚴夫事務局長(68)は「滋賀の酒蔵は昭和50年くらいまで伏見や灘に酒を出荷することが多かった。今はそれぞれがブランドを持ち、頑張っている」という。

 同組合によると、かつて滋賀で生産されていた酒米「渡船(わたりぶね)」を復活させる取り組みやシャクナゲなどの花についた酵母を使ったお酒など県内の酒蔵が個性を競っているという。

 酒との出会いを演出する酒蔵もある。近江八幡市仲屋町の「西勝酒造」が運営する「酒游舘(しゅゆうかん)」は貯蔵蔵と米蔵を改装した空間で、近江牛や湖魚など地元食材を使った料理を楽しめる。酒を仕込む木おけの底を机に使い、蔵の趣を残す。西村恵美子取締役は「風情ある空間で日本酒を楽しみながら日本酒を通した出会いが生まれてほしい」と語る。コンサート会場も兼ね、音楽家が蔵に音を響かせている。

 酒蔵では世代交代が進んでいる。池本酒造(高島市今津町)の池本浩久さん(33)は父親の死去に伴い、30歳で蔵元兼杜氏(とうじ)になった。先代から、コイを水田に放して育てた無農薬米を使用しているほか、ヨーロッパやドバイ、香港など海外の日本料理店にも出荷している。加えて池本さんは昨年から夏に仕込む「にごり酒」の販売を始め、ラベルには酒の説明や作り手の思いを盛り込んだ。池本さんは「先代とは味が違っても、米の味を引き出したうまい酒をつくりたい」と意気込む。

 大津市中央1丁目の平井商店でも蔵人の平井弘子さん(26)が父親の八兵衞さん(57)と酒づくりに励んでいる。日本酒離れの中、広く魅力を知ってもらおうと、愛知県、岐阜県の女性蔵人と「蔵娘会」を結成。酒と食事を楽しむイベントを開催し、酒に対する熱い心を発信している。平井さんは「お酒について分からないことばかりですが、技術を身につけていきたい。若い人にも日本酒のすばらしさを知って飲んでほしい」と語る。

 新たな力が加わり、湖国の酒蔵に新風を吹き込んでいる。

<データ>
 国税庁の「酒のしおり」によると、2008年度の滋賀県内の成人1人当たりの酒類販売量では、ビールが22リットル、発泡酒が10・7リットル、リキュールが8・9リットルで、日本酒は6・5リットルと低迷している。1998年度は日本酒が12・1リットルだったが、半減している。

<プラスα>他業界との協働に期待

落ち着いた雰囲気の酒游舘(近江八幡市仲屋町)

 「酒は生き物。工業製品での違いは誤差だが、酒では個性なんです」との蔵元の言葉が印象に残った。

 各蔵元は純米酒の比率を高め、無農薬米や山廃仕込みといった米や製法にこだわった高品質な酒造りに生き残りをかけている。高島市安曇川町特産のアドベリーを使ったリキュールや棚田の米を使った日本酒といった地域資源との協働も進む。

 出会った若い作り手たちが自慢の日本酒を、日本酒離れの同世代にどう売り込むのか。酒造業界だけではなく、飲食や観光、デザイン業界など、さまざまな分野との協働も期待したい。

【2010.10.10掲載】