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日本有数の名産地 「味」求め続く新種開発

(13)近江の茶(県内全域)
春の収穫を待つの茶畑。一面に緑が広がる(甲賀市土山町)

 近江の茶は、平安時代の805年、天台宗の開祖、伝教大師最澄が中国から種を持ち帰り、比叡山麓の日吉大社周辺にまいたことが始まりと伝わる。その後、栽培に適した昼夜の温度差が大きい内陸部を中心に生産地域が広がり、日本有数の名産地の一つになった。毎年各地で開かれている全国茶品評会でも上位入賞の常連になっている。

 滋賀県内最大の産地、甲賀市の土山地域。比較的平たんな場所に茶畑が広がり、霜の害から畑を守るため、空気を送るプロペラが付いた柱が立ち並ぶ。同地域には約250ヘクタールの茶畑があり、一面緑の壮観なパノラマが美しい。

 のどかに見える風景だが近年、大手清涼飲料水メーカーによるペットボトル茶の普及などに伴い、高級茶の需要が減少している悩みもある。

 本格的な冬場に向かうこの時期は、病気に強く味が良いとされる「つゆひかり」や「おくみどり」など新たな品種に植え替える作業や、病害虫への警戒が続く。来春の新茶に向けて気が抜けない。土山町茶業協会の前野利在会長(61)は「良いものができた時の満足感はひとしお。産地間競争が進むなか、品質で勝負していきたい」と葉を見つめた。

 名高い「朝宮茶」を生産している甲賀市信楽地域では7年前から、茶畑周辺の水路などに水質改善の効果があるヨシを植えたり、年2回、水質調査を行うなど、栽培による環境への影響も意識した先進的な取り組みを行っている。信楽町茶業協会の辻本治央会長(58)は「琵琶湖を抱え、時代とともに環境の重要性が増している。大量生産では出せない味を求め、良いお茶を飲んでもらいたい」と話す。

 県茶業会議所(同市水口町)は、茶葉に覆いをかぶせて遮光日数を調整し、うま味と香りを凝縮させた「かぶせ茶」を使った商品「琵琶湖かぶせ」を2004年に発売、近江の茶というブランドの浸透へ力を注ぐ。

 最澄が持ち帰ったというお茶から新品種の開発を目指す動きもある。県農業技術センター茶業指導所(同市水口町)は昨年6月、最澄の茶の子孫が栽培されているという日吉茶園(大津市)から茶枝を譲り受け、栽培を始めた。新品種開発に向け今後5〜10年をめどに研究が続く。「過去から来た救世主」となるか。注目が集まっている。

<データ>
 県農業技術振興センター茶業指導所によると、県内の2008年度の茶畑総面積は約666ヘクタール、出荷のため蒸して揉んだ後、乾燥させた荒茶(あらちゃ)の生産量は約789トン。生産、販売を行っている農家は約3000戸で、減少傾向にあるという。また、最澄が県内に茶を持ちこんだという由来は、中国浙江(せっこう)省の中国茶業博物館でもパネル紹介されている。

<ぷらすα>「誇り」を味わう

最澄が持ち帰ったという茶の子孫から茶枝を譲る受けて栽培している苗(甲賀市水口町・県農業技術センター茶業指導所)

 「琵琶湖かぶせ」をいれて飲んでみた。まろやかですっきりした後味。ゆったりとした気分になり、ほっと息をついた。

 生産者から「1200年続く伝統の産地。誇りとこだわりを持ちたい」という言葉をよく聞いた。味と歴史に自信があるからこその思いだろう。

 この思いを引き継ぐ「最澄のお茶」が商品になるかはまだ未知数。しかし、早くもその味わいが楽しみになってきた。

【2010.12.12掲載】