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培った技術生かす 中小、福祉や個人へ活路

脱下請け(湖北・湖東) 
iPhone(アイフォーン)を修理する社員。全国の個人や企業から宅配便で依頼が届く(東近江市大萩町・ノセ精機)

 電機など製造業大手が工場を滋賀県から中国へ移し、県内で下請け企業の廃業が増えている。だが中には、培った技術で「福祉」という異分野に進出したり、顧客の重点を「個人」に移して活路を見いだす中小企業も出始めている。湖北・湖東地域で元気な2社の歩みから「脱下請け」のヒントを探る。

 防水布やアルミパイプの部品を連結すると、1分ほどで組み立て式浴槽「湯っとりあ」が完成した。1台26万円するが、車いす利用者など介護を必要とする高齢者の入浴に便利で、小規模福祉施設を中心に年100台近く売れている。

 開発したのは福祉機器メーカー「サンクフルハート」(長浜市、社員7人)。大手電子機器会社の下請けだったが、7年前に未経験の福祉分野に参入した。「小規模施設は増えており、需要は今後も伸びる」。山岡健一社長(34)は手応えを感じている。

 県内では1960〜80年代、電機、自動車など大手が工場を進出させ、多くの下請け企業が生まれた。だが、2000年代以降は大手が中国への工場移転を加速させ、下請けへの発注を大幅に減らしている。

 サンクフルハートも04年、中国に製造拠点を移した大手からわずか3カ月で発注をゼロにされた。廃業の瀬戸際の中で、選んだのは福祉分野だった。

 「先代社長の父親に身体障害があり、以前から福祉に関心があった。県のマッチング事業で、簡易浴槽を考案した人を紹介されたことも大きかった」。山岡社長は当時を振り返る。下請け時代に組み立て機械の改良を重ねた経験があり、「機械工作の得意な社員が何人もいた」ことが強みになった。スキーのストックを応用した転倒防止つえなど福祉用具4商品を開発。現在では福祉に特化し、年商は約7千万円になった。

 顧客を大手1社頼みから全国の「個人」に移し、復活した企業もある。超細密なはんだ付け技術を持つ「ノセ精機」(東近江市、社員14人)は7年前、大手電子機器メーカーの工場移転で受注が激減。以後2年間、畑違いの家具製作や養殖など10近くの事業を試みたが、採算が合わなかった。

 転機はインターネットがもたらした。はんだ付け技術を紹介するホームページを作ったところ、カーナビやオーディオの改造をしたり、パソコンを自作している個人から質問が殺到。電子機器の改造・修理を受ける個人向けサービスを始めると、全国から注文が相次いだ。

 今では人工衛星や家電の試作品など、大学や大手メーカーから1点ものの基盤製作の仕事が舞い込み、年商は約6千万円に。野瀬昌治社長(44)は「下請け時代は技術を安売りしすぎていた」と自信を見せる。

 県内の中小企業に詳しい県商工会連合会の西澤哲・経営支援課長は「下請け時代に培った技術を多品種少量生産にいかに応用できるかが鍵。県内には若い経営者が育っており、中小企業間で連携が進めば、新たな市場の開拓も進む」と期待する。

<データ>
 工業統計調査によると、滋賀県内の工業の事業所数は2976カ所(2009年)で、ピークだった1985年に比べ、36%減った。08年から09年に減った345カ所のうち、299カ所が従業員30人未満だった。

<ぷらすα>「顧客に聞く」実直に

社員を車いすに乗せ、「湯っとりあ」の使い方を説明する山岡社長(長浜市高月町落川・サンクフルハート)

 「湯っとりあ」は、山岡社長や社員が地元の福祉施設に試作品を何度も持ち込み、軽量化や組み立てやすさを追究してヒットした。介護職や高齢者の生の声を集めるため、福祉用具の販売部門を興し、施設と人間関係を作ることから始めている。

 浴槽の色もベージュに変えた。高齢者からの「水色だと寒く感じる」という声を生かした。中小企業は営業力や企画力で大企業にはかなわない。不利を補うには、「顧客に聞く」というビジネスの基本を実直に行うしかない、と感じた。

【2011.06.26掲載】