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最後のメーカー 風合い自慢、需要開拓も

竹ものさし(甲賀市甲南町)
切りそろえた竹に専用の機械で目盛りをつける。「部品を自前で開発した」と話す岡根勝さん(甲賀市甲南町竜法師)

 竹の風合いが手になじむ物差し。甲賀市甲南町は、知る人ぞ知る「竹ものさし」の産地。同町竜法師の岡根製作所は、竹の風合いにこだわり、現在でも竹一筋で製造を続けるメーカーだ。

 「一口に竹ものさしと言っても、用途によってさまざまです」と、2代目社長の岡根勝さん(68)。同社で製造しているのは約200種類。一般的な裁縫や建築用から、新聞社で紙面レイアウトに使う倍数尺など、業種に合わせた専門の物差しがそろう。陶器を窯で焼いた際に縮小する割合に合わせて目盛りがついた「陶器尺」は、近くの信楽の窯元でも活躍する。

 甲南の地には戦前、京都から職人が移り住み、技を伝授する形で広まり、製造業者は3〜4軒あったとされる。現在、残るのは同製作所のみとなった。

 岡根製作所は1948年に創業。61年から社業を継いだ岡根さんは九州の機器メーカーを訪ね、専用の製造機を8年がかりで開発、職人の手作業だった世界でいち早く量産体制を築いた。79年には下請けから脱し、自社製品を販売できるようにもなった。

 最盛期には年間数万本を製造したが、近年はプラスチック製物差しの普及で市場環境は厳しい。さらに数年前から中国製の竹ものさしが出回り始め、価格競争を迫られている。地元産の竹を切りそろえ、竹材にする人がいなくなり、愛媛県や九州に竹材を頼っているのも悩ましい。

 だが竹ものさしへの需要も根強い。呉服業界では、金属製物差しは布地が傷むため、竹製品が今でも愛用されている。表具やふすまに用いる小さな金尺など、特殊用途のものも多い。また最近では、竹の風合いや手触りが見直され、プラスチック製品に切り替えたかつての取引先から、再び注文が入るケースも。「しなりや肌触りはプラスチック製にはまねができない。中国製品とは仕上がりが違う」と岡根さんは胸を張る。昨年、長男の正樹さん(37)が製作所を継ぎ、目盛りを見やすくするなど新たな工夫を始め、新規需要の開拓を目指している。

 甲賀商工会甲南支部では、物差しの産地が「忍者の里」であることから、数年前から小型の物差し「しのびさし」や、7センチのミニ物差しをあしらったストラップを新名神高速道路の甲南パーキングエリアで販売するなど、ご当地製品としてアピールしている。

<メモ>
 日本計量機器連合会によると、同会加盟社では、神奈川県小田原市に竹ものさしのメーカーが数社あったが、現在はゼロ。鹿児島県のメーカーは竹ものさしの製造を数年前から中国に切り替えた。岡根勝さんによると、国内で竹ものさしを製造している社は「わが社以外にもうないのでは」という。

<ぷらすα>規格品でも個性豊か

地元・甲南の産品として、新名神甲南パーキングエリアなどで販売されている「しのびさし」

 新聞社で使う竹製の「倍数尺」。私も内勤職場にいた時に使用していた。いつしかプラスチック製に置き換えられたが、竹製には愛着があった。機能は同じでも、「モノ」としての存在感は、圧倒的に竹に軍配が上がる。

 「杓子(しゃくし)定規」という言葉があるように、物差しは文字通りの規格品。それなのに竹ものさしは一本一本に個性があるという不思議な製品だ。無個性な大量生産品にない良さをアピールできれば、愛好者が広がるかもしれない。

【2011.07.24掲載】