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国内唯一の集積産地 環境素材で市場先取り

彦根バルブ (彦根市)
少量多品種の生産体制をとる「彦根バルブ」の工場。国内市場で高いシェアを持つ製品も数多い(彦根市・廣瀬バルブ工業)

 ○、△、□。あらゆる形状のバルブが、工場内に並ぶ。湖国の地場産業「彦根バルブ」の老舗企業、廣瀬バルブ工業(彦根市)。製品数は7000種を超え、建機や工作機械で使われる油圧バルブで国内シェアの8割を握る。少量多品種を生産し、すきま市場で高いシェアを持つ典型的な有力中小企業だ。

 だが、産地は国内需要の減少など構造的な問題に直面している。廣瀬一輝社長(71)は「業績は2008年のリーマン・ショック前の8割まで戻ったが、円高もあって、先行きは不透明だ」と警戒感を隠さない。

 彦根バルブは、滋賀県の九大地場産業で、「甲賀・日野の製薬」に次ぐ生産額を誇る。バルブ産業では全国で唯一の集積産地だ。売上高が1社で100億円を超える大手はないが、中小の約30社が湖東地域に集い、水道用、産業用、船舶用の3分野で高いシェアを持ち、国内の製造業やインフラを下支えしている。

 業界が直面する課題は主に3点ある。国内需要の減少、海外の脅威、環境対応だ。

 業界関係者によると、水道用は産地として国内シェアの6割に及ぶが、水道など公共事業の縮小に、国内人口の減少による新築住宅の減少もあり、逓減が見込まれる。船舶用は、中国や韓国の造船メーカーが台頭し、納入先の国内造船会社は苦戦する。また、環境意識の高まりで、発注元の自治体や製造業からは、環境対応型の製品を求められるという。

 逆境を乗り越える仕掛けも散見される。

 滋賀バルブ協同組合(彦根市)などが開発、特許を持つ銅合金素材「ビワライト」が、米国で注目されている。有害な鉛を使わない環境素材と認められ、米国鋳造協会が評価試験を行っている。米政府が飲料など配水システムで、14年から鉛含有量を規制するためで、海外での特許利用が現実味を帯びてきた。

 営業を担うビワライト社の寺村正和取締役(68)は「日本でもいずれ同様の環境規制が行われる可能性は高い。米国で特許利用が広がれば、国内でも普及拡大の芽が出てくる」とみる。

 また、廣瀬バルブは、油圧式に加え、環境負荷の少ない水圧式も開発し、次世代の製品として売り込んでいる。廣瀬社長はいう。「時代を読み、技術を磨き、市場を先取りできるか。中小企業はこれにかかっている」

<データ>
 滋賀バルブ協同組合によると、1887(明治20)年ごろ、仏具職人だった門野留吉氏が、蒸気用カランを製作したのが始まり。生産高は1997年の312億円がピーク、2010年が221億円。ビワライトは、2006年に同組合が関西大などと産学連携で開発し、県とともに製造開発の特許を持つ。現在、国内素材メーカー3社と特許契約を結び、年間7トン超が生産される。

<ぷらすα>時代に合わせ柔軟に

米国でも注目されている環境対応型の銅合金素材「ビワライト」で製造したバルブの試作品(彦根市・ビワライト)

 彦根バルブは、日本の近代産業の歩みに重なり、地場産業として120年を数える。歴史を追うと、時代の要請に合わせ、製品や市場を柔軟に移行させたさまがうかがえる。

 昭和の復興や高度成長では、インフラ整備が進むと水道用を手がけ、造船が盛んになると船舶用にも力を注ぎ、分野別で伸び縮みはあっても、総生産高を伸ばしてきた。製造業は、グローバル化や激しい円高など平成の激動期にある。彦根バルブの工場は、雰囲気こそ古き良き昭和の町工場だが、その歩みを鑑み、積み重ねたものづくりの技術や進取の気鋭を見聞きすると、十分な底力を備えている気がする。

【2011.08.28掲載】