京都新聞TOP > 経済特集アーカイブ > 湖国経済
インデックス

中国市場に進出 需要多い古琴に挑む

和楽器糸 (長浜市木之本町)
合糸を繰り返し、伝統の独楽撚(こまよ)りを行う(長浜市木之本町・丸三ハシモト)

 戦前まで養蚕が盛んだった湖北地域で、良質の生糸を使って1908(明治41)年に創業した県内唯一の和楽器糸メーカー「丸三ハシモト」(長浜市木之本町)が、培われた絹弦製造技術を生かして中国市場進出を目指している。

 昨年10月、中国・上海で開かれた楽器の新国際万国博覧会。同社は中国の伝統楽器である二胡(にこ)、中胡(ちゅうこ)、琵琶、古琴(こきん)の絹弦を出品し、デモンストレーション演奏を披露した。1500を超すブースが並ぶ中、反響は大きく、30社以上の商社や小売店から問い合わせがあった。

 「日本の楽器のルーツは中国にあって音色も似ており、うちの技術が生かせる。伝統楽器の演奏人口も非常に多い」と橋本英宗専務(37)は中国市場への期待を話す。

 国内では絶大な評価を得ている同社が中国に目を向ける背景について「国内で和楽器が家庭で使われる機会が少なくなる中、絹弦製造の技術を守り、経営を安定させるためにはさまざまなトライが必要」と説明する。

 2008年には韓国の伽耶琴(かやきん)の絹弦、10年6月には音色や演奏のしやすさを改良した琴の絹弦、同10月にはナイロンの弦が主流となっているウクレレ用の絹弦を開発、販売するなど、近年は西洋楽器を含めて幅広く手を打ってきた。

 3年前からは同社のホームページを見た中国の演奏家などから「日本の技術を使って中国楽器の絹弦を作ってほしい」という依頼や相談が入るようになった。現在、中国の伝統楽器の弦はほとんどスチール製で耐久性があって人気だが、絹弦であれば柔らかく哀愁のある伝統に沿った音色が出せる。

 「多くの声が寄せられ、ニーズに応えたい」(橋本専務)と、今年1月から、二胡、中胡の絹弦の試作を始めた。新国際万国博覧会では、中国で最も需要を見込めるのが演奏人口の多い古琴であると分かった。しかし、試作を重ね、ほぼ完成している二胡、中胡に比べ、古琴はまだ音色作りを試行錯誤している段階だ。

 橋本専務は「二胡、中胡はいつでも発売できるが、半年後をめどに古琴の試作を終えた後、3種類一斉に中国での販売を始めたい。高価でどれだけ売れるか分からないが、2年間をめどに力を入れていく」と話している。

<データ>

 和楽器糸メーカーは丸三ハシモトを含め国内に7社ある。同社は資本金1千万円、従業員9人。絹糸をより合わせて弦にする。ほぼ手作りで、三味線を中心に琴、琵琶、胡弓、沖縄の三線など350種類以上の絹弦を製造する。1種類で年間10万本ほど作るものから、年に3、4本の特注品まであり、価格は一本数十円から数千円とさまざまだ。音色、弾きやすさでプロ演奏家からの評価は絶大で、文楽の人形浄瑠璃では、ほぼすべての三味線の弦に使われている。

<ぷらすα>伝統守る熱意

出荷のため保管されている絹弦

 丸三ハシモトは日本古来の絹弦が醸し出す柔らかで、哀愁を帯びた音色と弾きやすさを追究している。国内の和楽器糸の需要が先細りする中、新しいことに挑戦して和楽器糸の製造技術を継承し、日本の伝統芸術を守りたいという熱意が取材を通じて、ひしひしと伝わってきた。「バイオリンの絹弦も作ってみたい」と橋本常務の情熱は止まらない。

【2012.01.12掲載】