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「私」の急伸 受験に「公」への不信も

学校教育のゆくえ(3)
塾主催で開かれた学校説明会。小学高学年の児童と保護者約800人が施設などを見て回った(京都市伏見区・立命館中)
 七月五日、立命館中(京都市伏見区)で開かれた学校説明会。蒸し暑い中、小学五、六年生と保護者ら約八百人が詰め掛けた。同中職員が引率し、土曜授業で学ぶ生徒や食堂など学校施設を回る。ホールでは職員が「ここでしか話せないことがある」と切り出し、合格ラインの偏差値などを明確に説明する。
 恒例の光景のようだが、主催は実は学校ではない。進学塾の成基学園(本部・京都市中京区)だ。
 私学関係者によると、京阪神の有名私立中学と進学塾が連携して開く学校説明会が、この五年ほどで当たり前になってきたという。文化祭など学校行事に合わせて設定し、施設や学校生活を楽しむ在校生の姿を見てもらう。子どもの受験動機をより明確にし「絶対合格したい」との思いを強めるためだ。進学率を上げたい塾と、優秀な生徒を確保したい私学の思惑が合致した結果にほかならない。
 有名私立中学受験が盛り上がる背景には、二〇〇二年の「ゆとり教育」導入前後から高まったPISAなど学力低下への批判、いじめや学級崩壊などの深刻化、それを受けた「公教育への不安、不信があることは否定できない」と京都の私学や塾関係者の多くは口をそろえる。
 成基学園本部執行役員の竹市悟己は、「ゆとり教育といっても私学は入試問題の難易度を下げていないから、うちの指導内容も(導入)以前と変えていない」と言い切る。
 実際、有名私学の中学入試で現行要領を超える問題は珍しくない。角すいの体積など現要領は中学に先送りしたが、入試レベルでは注釈表記して解答を求める私学もある。「私学中学入試の難問に対応させるため、子どもに無理な塾通いを強いて自ら考え、自ら学ぶ時間を奪っている」(京都市立小校長)との批判も受験熱に消されがちだ。むしろ同志社や立命館の小学校設置などで低年齢化が進む。
 公立学校側が塾を利用する場面も見受けられる。「進路指導の際、塾は君の志望校をどうみているのかと聞くのは常態化している」と京都府立高の男性教諭は打ち明ける。
 学校ごとの偏差値や入試問題の分析力で塾は公立校を圧倒する。文部科学省の昨年調査でも公立中三年の通塾率は都市部で七割近い。東京都杉並区・和田中が学力上位層向けの補習を塾に依頼し、物議を呼んだ「夜スペ」も、「いずれ珍しくなくなる」とみる公立関係者もいる。
 学力問題に詳しい京都大教授の上野健爾は「文部科学省が公立で認めない土曜授業を私立に認めるなど、公と私でダブル基準を取っているのが公立離れ、私立や塾の急伸を招いた」と批判する。
 私学進学や塾通いが過熱する一方、経済的に厳しい家庭の子どもは進路選択が狭まるといった「格差の固定化」も危ぶまれている。
 立命館中の説明会に六年生長女と参加していた京都府内の公立校教諭の母親(48)=山科区=は悪びれず話した。「高校受験を気にせず学校生活を楽しんでほしいので、わたしの子どもは中高一貫の私学に行かせたい」 (敬称略)
<PISA(ピサ)>  OECD(経済協力開発機構)が世界の15歳児を対象に行う「生きるための知識と技能」がテーマの学力調査。日本は2000年の第一回調査で数学的応用力1位、科学的応用力2位、読解力8位だったが、参加国・地域が増えた2回目以降、順位を下げ続けている。知識を使いこなす「PISA型学力」という言葉も生んだ。
【2008年7月23日掲載】