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大学奔走 学びの土台作り肩代わり

学校教育のゆくえ(5)
ロボットの面白さを高校生に伝える龍谷大の渋谷准教授(京都市東山区・大谷高)
 バイオリンを演奏するロボットが教室のスクリーンに映し出される。生徒らは人の腕のように器用な動きを不思議そうに見詰めた。
 大谷高(京都市東山区)で行われた二年生の授業。「龍谷大(伏見区)模擬講義」と銘打ち、教壇に立った理工学部准教授の渋谷恒司は生徒らに呼び掛けた。「多くの人に理科系に進学してほしい。日本の科学技術を支えよう」
 講義は高校生に大学で学ぶ目的意識を持たせ、意欲を高めることを狙う。
 こうした「高大連携」を主導する龍谷大理工学部長の四ツ谷昌二自身、高校側の要望があれば学校まで出向いて授業する。推薦入試を受験する高校生には自作の「入試前問題集」を配り、合格者には「入学前問題集」を課題として与える。「基礎学力は確かに下がっている。『ゆとり教育』の影響で、小中学校から高校への積み残しが増えたからだ」との危機感が背景にある。
 入学後も、京都工芸繊維大など高校の補習を行う大学は多い。大学の講義についていけない学生を支援する窓口を設ける動きも顕著だ。
 京都外国語大(右京区)は入学式の翌日、英米語学科の新入生約四百六十人が英語能力テスト「TOEIC」を受ける。二〇〇六年度から始めた一クラス約二十人ずつ、「二十四段階」の能力別クラス編成の判断材料にするためだ。厳しい環境に学生を置くことで、基礎学力を徹底的に鍛える。
 学生は週六時間、文法や発表形式セミナーなどの必修科目を段階別クラスで受講する。「同じレベルの人が集まるので、負けられないと思って刺激になる」と英米語学科一年の松島亮(18)は「能力別編成」をプラスに受け取る。二年の進級時には再編成がある。「やるからには上を目指したい」  「学力低下と嘆いていても仕方がない。コミュニケーション能力があれば学力も後からついてくる」。京都外大准教授の相川真佐夫は、クラス別の少人数教育で学生同士や学生と教員とのコミュニケーションの機会が増すことを期待する。「それこそが今の中高教育に欠けている」
 大学が気にかけるのは基礎学力だけではない。「社会性に乏しい学生が増えている。学校の外で人間力を高めてほしい」。同志社大が四月に設けた町家キャンパス「でまち家」(京都市上京区)では学生がボランティアで地域の子どもや高齢者に、手話や英語、京都検定の対策などを教えている。
 単位認定はないが、三年の清水辺由佳(20)は週四回はでまち家に行く。「人見知りする性格だったのに今はそれがなくなった。近くの商店街に行っても声を掛けてもらえるようになった」
 他の学生も地域の人たちと交流するのは初めての経験という。「生きる力育成」を掲げた「ゆとり教育」を受け、総合学習の授業もあったが、「高校時代には進路指導と補習ばかり。受験対策の時間だった」と清水辺は振り返る。
 少子化が進む中の大学全入時代。学生に手取り足取りの最高学府の実情に、日本教育の縮図も見える。(敬称略)
<大学の全入>
 大学の志願者数と定員が同数になり、大学や学部を選ばなければ誰もが大学に入学できる「全入時代」を迎えている。日本私立学校振興・共済事業団によると、2007年度の定員割れは私立大559校のうち約4割の221校、私立短大では365校のうち225校で約6割にも上る。
【2008年7月25日掲載】