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「目標」のあと 2極化の影、戸惑う大学生

学校教育のゆくえ(6)
学生確保に向け、京都ノートルダム女子大で開かれたオープンキャンパス(京都市左京区)
 時計台が見下ろすキャンパスのベンチに腰掛け、一人で学内のコンビニで買ったパンと牛乳の朝食を取る。朝一番の授業が始まったばかりで人影はまばらだ。今春、京都大(京都市左京区)に現役で入学した工学部の男子学生(18)は、一時間目の数学の授業には顔を出したがすぐに退席した。「勉強には少し疲れた」。男子学生は朝食を終えると、自動車の免許を取るために教習所に向かった。
 厳しい受験競争を乗り切り、目標としてきた大学での生活。だが、「本来は手段であるはずの受験が目的になり、入学後にやりたいことをつかめない学生は多い」(京都大理学部教授) 。
 同志社大ではカウンセリングセンターに相談に訪れる学生が、二〇〇〇年度の延べ約千人から〇六年度は七割増の延べ千七百人まで増えた。「何のために大学に入ったのかわからない」「本当は違う学部に行きたかった」。相談は小中高校と異なり、「自主的な学び」を要求される大学で戸惑う学生の心を表す。大学は専門のカウンセラーだけでなく、一、二年生の相談に乗る上級生も置き、学生のケアに取り組んでいる。
 京都大教授などを経て中央教育審議会副会長を務める梶田叡一は「子どものころから過度なエリート教育を受けて、大学や社会でつぶれる人を多くみてきた。三、四十代で才能が開花したり、社会に貢献する人も少なくない。学力とともに生きる力の育成が重要になってくる」と話す。
 明確な目標もないまま、キャンパスをさまよう学生が増えている。「受験負担を減らして入学のハードルを下げているせいもある。学力低下も少子化で学力下位層が大学に入っているからにほかならない。ゆとり教育のせいではない」(立命館大経済学部教授)と大学側の問題を挙げる関係者もいる。
 夏休み直前の土曜日。京都ノートルダム女子大(左京区)は、受験生に大学を知ってもらうオープンキャンパスを開いた。
 保護者とともに訪れた生徒らを在学生が案内する。世界的に活躍するバレリーナが踊りを披露する模擬授業を見学した後は、学生食堂でのランチ付き。土産には大学のロゴなどが入ったメモ帳なども配られ、至れり尽くせりだ。
 入学の一年以上も前の三月からオープンキャンパスを始めたり、志望理由や面接で合否を判断するAO入試で五、六月に合格を決める大学も少なくない。
 少子化の中で学生確保に躍起の大学。京都市内で進路指導を担当する私学高教諭は「AO入試は仲間内でオール・オッケー入試との揶揄(やゆ)もある。ほとんど勉強せずに入学が決まる上、その後の高校生活も遊んでしまう生徒が多い。本人の将来にはよくないので、うちは生徒にAOはすすめない」と批判的だ。
 「一方で難関大学の入試は指導要領を超えて難しいまま。完全に二極化している。大学側の改革なしに、ゆとり教育や生きる力の育成といってもナンセンスだ」(敬称略)
<AO(アドミッションズ・オフィス)入試>
 学力重視の一般入試に対し、志望理由書や高校時代の成績、面接などを重視する。日本では1990年度に慶応大が初導入した。実施校は年々増え、文部科学省の2007年度調査では国立35校、公立17校、私立402校。一方で「青田買い」「学力が担保されない」などの批判もあり、一部で取りやめる大学も現れている。
【2008年7月26日掲載】