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見直し前夜 授業時間増に対応模索

学校教育のゆくえ(7)
教員免許の更新講習で理科の面白さを学ぶ小学校教員ら(京都市左京区・京都大博物館)
 境谷小(京都市西京区)六年の英語授業。「アイ・ウエイ(わたしの体重は)…キログラム」の表現に数字を当てはめて答える。
 体重、身長、年齢…。子どもらは途切れることなく一けたから三けたまでの数字を自在に使いこなした。教えるのは、地元洛西ニュータウンで英語教室を主宰する宮下まさみ(56)だ。
 新しい学習指導要領で二〇一一年度に小学校英語が必修化されるのを踏まえ、京都市では四月から週一回、全小学校で五、六年の英語授業を始めた。
 境谷小のように教員免許を持たない宮下が授業を受け持つのは、「公立学校には画期的」(市教委)という。教員免許が要求されないALT(外国語指導助手)の制度を利用し、授業を主導する。英語指導約二十年の経験を持つ地域の人材を生かすことで、児童だけでなく、教師にも刺激を与える試みだ。
 六年担任の女性教諭(27)は「大学で英語の教え方は習わなかった。経験豊富な宮下さんに学ぶことが子どもにとってもいいし、わたしも勉強になる」と率直だ。
 「学力低下」の批判を受け、授業時間が約三十年ぶりに増える。前倒し実施が来春から本格化するなか、各地で準備が進む。
 英語の必修化、読解力を高めるための国語の時間増と並び、新要領の柱となるのは理科教育の充実。小学校では総授業時間数が三百五十時間から四百五時間に増え、観察や実験、分析が強調されている。これに対応するのも学校現場の切迫した課題だ。
 科学技術振興機構の〇五年調査で、理科が苦手と答えた小学校教員は約六割に上る。教材作成に工夫が必要で、実験に失敗するなど教科書通りに教えられないことが苦手意識を生んでいるという。
 「二枚貝はどうやって呼吸しているかな?」。京都大総合博物館(左京区)教授の大野照文が貝殻を手に問いかける。「魚類だし、えらがあるはず」「吸水管に張り付いているのでは」と、小中学校教員ら二十人が議論を闘わす。
 京都大と京都造形芸術大が「理科大好きな先生になる」と銘打った三日間の講習。参加者の半数は神奈川や大阪など京都以外の教員だ。〇九年度から教員免許が十年更新制になるのを前に、各地の大学で文部科学省の委託を受け研修の試行が進む。この講習は免許更新と絡めて、理科の指導力向上を狙う。
 参加した向日市の小学校教諭下田淑子(52)は「三十年間教えてきたけれど、理科の面白さを伝え切れていなかった。さっそく教室で子どもに見せてやりたい」と話す。
 ただ、授業時間の増加や免許更新などは、多忙な教師の負担をさらに増やすのが必至だ。文科省の勤務調査では、教師は一日十一時間近く働いている。「学ぶ量を増やせば、子どもの学力が上がるというものでもない」(京都市の中学校長)との声もある。
 「ゆとり教育」を見直した新要領は「確かな学力を土台に、生きる力をはぐくむ」との理念を投げかける。学校をはじめ地域や家庭、行政がどう受け止めるかが成否の鍵を握る。(敬称略)
<新学習指導要領>
 2012年までに完全実施される。理科は小学6年に食物連鎖などを復活させ、算数は円周率を「目的に応じ3を用いて処理できるよう配慮」していた項目を「3・14」に戻す。中学校の英語で学ぶ単語数は現行900語を1200語程度に増やす。体育は武道とダンスを必修化。時間数が減る総合学習も中身の充実を求めている。
【2008年7月27日掲載】