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学ぶ 意欲欠くゆとり世代

第2部 朱雀高からの報告
水に触れたナトリウムが「ボッ」と炎を上げる。「実験を通じて、知的好奇心を持ってほしい」と先生は話す(京都市中京区・朱雀高)
 朱雀高の1年生の教室で国語の授業が始まった。期末テストに向け、先生が出題範囲の要点をざっと説明していく。「教科書開きや」と先生から声を掛けられ、やっとページをめくったのは、ハルキ=仮名=だ。
 中間テストで成績が芳しくなかったハルキは前日、先生から何度目かの補習を受けた。漢文訓読の初歩でつまずいている同級生と返り点や書き下し文を手取り足取り教わった。
 しかし、今日も相変わらずハルキの反応は鈍い。板書をノートに写し始めたが、教科書のどの部分かが分からず、しきりにページを繰る。その時、後ろの席で熟睡していた女子生徒が飛び起きた。教室中に響き渡る先生の声は子守歌でも、机の中に入れたマナーモードのケータイだけには敏感。彼女も補習の常連だ。
 「何とか進級してもらいたい。めげたらあかんと、何度も自分に言い聞かせています」と先生。ただ、補習で甘やかすのは良くない、とも思う。「進級?ヤバイっすよ。家では勉強しないし」と、ハルキたちから学習意欲がほとんど感じられないからだ。家庭で「全く勉強しない」と答えた1年生は20%を超える。
 成績が基準に満たない赤点が3科目以上あると進級できない。1学期の中間テストで3科目以上赤点だった1年生は全体の25%を超えた。
 毎年、新入生に同じ内容で実施している独自テストでも、基準となる点数に満たなかった本年度の新1年生の数は昨年度の2倍だった。
 今春の入試で、進学を掲げるII類が第1志望で定員割れし、居住地で振り分けられる総合選抜のI類も「新設の私立中高一貫校に学力中間層が流れ、朱雀高のある北通学圏の合格最低点が下がった」という。1年生の学力は入試にも左右される。
 「板書を写し終えた子が『これ何の話?』と聞いてくる」(国語)、「bとdを間違える」(英語)…。先生が驚く生徒の「異変」は今に始まったことではない。現3年生が入学してきた際、多くの先生が「新人類が来たと感じた」と振り返る。
 「ゆとり教育」を掲げ、2002年度に改訂された新学習指導要領で、現3年生は中学校3年間を過ごした。週5日制の完全実施や総合的な学習の時間の導入で、学習時間・内容が3割削減される一方、大学入試で求められる学力レベルは下がらず、高校での学習内容は過密になっている。基礎学力が十分につかないまま高校に入学してくる生徒への対応は全国でも緊急の課題だ。
 朱雀高は1年生の総合学習で独自教材を使い、全員に小中学校の学び直しをさせている。英語の辞書の引き方や漢字の熟語、「2500円の1割2分引きは?」といった算数の文章題…。一部の生徒からは「簡単過ぎて面白くない」という声も上がるが、ある先生は「小中学校からの再スタートが必要な子に、『山はどこから登っても頂上につけるんや』と教えてやりたい」と話した。

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 「特色ある学校づくり」が府内の公立高で叫ばれながら、一様に大学進学実績ばかりが重視される傾向が強まっている。高校進学率の上昇に伴い、基礎学力の欠如や学習意欲の低下、集団と適応できない生徒が増える中で、大人になるための訓練の場としての高校の役割は見過ごされがちだ。府内の公立高で唯一、全日・定時・通信の3部制を置く府立朱雀高(京都市中京区)の日常から高校の在り方を再考する。
5回掲載の予定です
<学習時間>
 民間のベネッセ教育研究所の調査によると、「家庭でほとんど勉強しない」と答えた高校生が4割近くに増加。朱雀高の生徒アンケートでも、家庭学習について「30分未満」「全くない」と答えた生徒の割合が1年と3年で4割弱、2年では5割を超えた。