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つながる 不登校チーム4連覇

第2部 朱雀高からの報告
野球未経験、不登校経験の部員が多いが、定時制チームの強さの秘密は「誰かがミスしても必ず誰かがカバーすること」という(京都市中京区・朱雀高)
 午後5時45分、朱雀高定時制の授業が始まった。2年の数学は期末テスト前の演習。生徒13人の少人数教室で先生が個別に指導する。
 「先生、この筆算ってどうやるの?」と米岡千尋さん(16)。アドバイスを受けて「そうそう、こういうところが抜けてんのよね」とつぶやきながら、数字を書き込んでいく。
 米岡さんは中学校に1年ほどしか行っていない。いじめに苦しみながらも、小学校には通った。中学校に入り「しんどいなあ」という思いが少しずつ積み重なり、2年生のある夜、「落ちようかなあ」と自宅の2階から突然飛び降りた。一瞬の浮遊感と強い衝撃。母親に「救急車呼んで」と言ったことを覚えている。
 けがが治った後、週2回ほど別室登校したが、3年の時に重い病で、またも入院。欠席日数が多いことから定時制進学を決めた。
 「中学校では呪文(じゅもん)のように聞こえた」という英語も、「わからないから嫌いだったことがわかった。知ることは楽しい」とほほ笑む。
 「初めて数学がビミョーに好きになってきた」と言う友人の高木祐美さん(17)も不登校経験者だ。「個人が自由で統一性を求められないのがいい」。中学時代、集団行動が最優先される人間関係が苦手だったが、今は心から信頼できる友人を得たことで集団にいても居心地がいい。
 かつて、経済的な事情から昼間に働く若者のための場所だった定時制は近年、「学力や人間関係でしんどい生徒の受け皿」(前島巌副校長)にもなっている。しかし、卒業までの4年間に、1年で3分の1がやめ、4年では半分になるのが実情だ。ある先生は「仲間とのつながりが弱い子は定着できない」と話す。
 午後9時10分、終業のチャイムを合図に、定時制野球部13人が夜のグラウンドに飛び出して行く。
 「ボールは来るんやから迎えに行くな」。ノックする竹本裕一教諭の怒声が響く。動きがぎこちないメンバーもいる。部員のうち、野球経験者はたった3人。8人は不登校経験者だ。そんな「不登校チーム」が京都大会を4連覇し、神宮球場での全国大会で初優勝を狙う。
 ショートは4年の小野透君(21)。中学1年で「宿題ができず先生に怒られるからと学校を休んだら行けなくなった」。18歳で定時制に入り、未経験の野球を始めた。1年時は神宮のスタンドで声をからし、チームは準優勝。「金メダルで返してな」と、先生の銀メダルをもらった。
 守備の要であるショートを決める時、人一倍不器用だが、人一倍練習する小野君が先生の頭に浮かんだ。「エラーしても、小野なら『しゃあないな、皆でカバーしようか』となるか…」。それがチームの強さだ。
 「エラーが一番多くて、先生に怒られない日はない」と小野君は笑う。「神宮では一番をとるしかない。先生と約束もあるし…」。8月10日、最後の夏が始まる。
<定時制課程>
 2006年度の文部科学省学校基本調査によると、定時制の生徒数は約10万人。京都府内では公私合わせ2600人余りが通学する。07年度の公立高入試では、夜間定時制を置く8校(内分校2校)、昼間定時制の5校(同4校)に500人が志願した。