京都新聞TOP >糸賀一雄生誕100年「世の光に」はいま
インデックス

発達の喜び、機器で支え

キッズ・ロコを取り付けた車いすの古川さんを囲む高塩さん(右端)と安田教授(左端)ら(草津市・びわこ学園医療福祉センター草津)
キッズ・ロコを取り付けた車いすの古川さんを囲む高塩さん(右端)と安田教授(左端)ら(草津市・びわこ学園医療福祉センター草津)
 ボタンに軽く触れただけで、リハビリテーション用の特注の電動車いすがゆっくりと前に進み出した。草津市の重症心身障害児者施設「びわこ学園医療福祉センター草津」で、重度の脳性まひと知的障害のある杉江華鈴(かりん)さん(10)=湖南市=が車いすを動かす。スタッフが「上手だよ」と応援すると、杉江さんは白い歯を見せた。

 同センターリハビリ課長で理学療法士の高塩純一さん(55)と滋賀県立大工学部の安田寿彦教授(57)らは2007年から、思うように自分の体を動かせない子どもでも簡単に操作できる移動機器の開発に取り組む。「キッズ・ロコ」と名付け、ボタンを大きくするなど工夫し、使う子どもに合わせて立った状態で乗って歩行を疑似体験できるタイプや、車いすの下部に取り付ける車輪と動力部分だけの小型のタイプなど6種類を試作した。

 同センターに入所する古川仁志さん(28)は前進ボタンだけのタイプに乗ると、食堂の自動ドア付近でよく止まった。古川さんは言葉を話さず、職員には理由が分からない。左右に曲がるボタンを追加すると、古川さんはボタン操作でドアに近づき、ドア表面のセンサー部分に手を伸ばして何度もドアを開けた。「おーっ」と大きな声で喜びを表現した。

 「ドアの開け方を理解して、自分でやってみたかったんだ」と職員たちは驚いた。障害者の行動一つ一つに意味がある。糸賀一雄とびわこ学園創立に携わった初代園長の故岡崎英彦さんが残した「本人さんはどう思ってはんのや」という言葉をあらためて考えさせられた。

 糸賀一雄は、どんなに重い障害があってもその命や人権、発達が保障されるべき、と唱えた。高塩さんたちの取り組みは本年度、糸賀一雄記念財団が障害者福祉の先進事例に贈る「しが未来賞」に選ばれた。移動機器の開発が「子どもの主体性や肯定感などを育んだ」と評価された。

 母親が車いす生活となり、介護を経験した安田教授は「体の不自由な人や家族の不安やストレスを、工学で軽減したい」という。高塩さんは「脳性まひの子が、乳幼児の時期にもっと移動機器を使えるようになれば、社会性や認知能力の発達を促せる」と期待する。

 キッズ・ロコに乗る杉江さんは時折振り向き、母親の登茂子さん(34)が付いてきているか確かめる。登茂子さんは「周囲への関心がいつか、人と話したいという気持ちにつながれば」と願う。

びわこ学園

 西日本初の重症心身障害児者の医療と教育施設として1963年に創設された。草津と野洲の両市にある同学園医療福祉センター計2カ所に約230人が入所する。ショートステイや通所事業などで在宅支援も取り組んでいる。

【2014年03月26日掲載】