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俳優 榎木孝明さん

国を動かし京都で時代劇復興を
時代劇復興は京都にしかできないと考える。「地元の人たちが誇りを持って立ち上がってほしい」(京都市中京区)

 昨年11月、新年のテレビ時代劇の撮影で京都に滞在していた俳優榎木孝明さん(56)は、「水戸黄門」の最後の撮影日に行われた打ち上げに偶然参加した。
 「長年携わってこられたスタッフや職人さんたちにいろんな話を聞かせていただいたが、将来に展望が持てない寂しさを感じた。今回、水戸黄門が放映終了になったのは残念だが、問題を認識するチャンスだと思っている。あえて言うと、京都から時代劇がなくなるはずがないという安心感がどこかにあったと思う。でも現実はこうです。継承は、一度途絶えると復活するのは難しい。長老たちがいる今なら、まだ間に合う。一人では何もできないと思わず、広げていくことがとても大事です」

 時代劇の復興に向け、国を動かさないといけないと訴える。
 「個人や会社レベルではどうしようもない。世界を見ると、韓国やロシアは国が大きな予算をかけて映画を製作しています。かつては日本の映画やテレビをまねていた韓国が、現在は日本に先行し、映画を国の産業に育て、外貨をかせぎ文化を広める手段にしている。実際にベトナムでは韓国映画の人気から工業製品が売れているそうです。

 日本は、文化に対する国の政策が後れている。1年間に10本なら10本、きちんとした時代劇を作る予算を付けたらどうでしょう。コンペで脚本を募集し、内容を吟味する。作品はすべて子どもたちに無料で見せる。子どもが見る映画は親も見たいだろうからお金は親から取るんです。

 さらに、時代劇を学べる学校を国が京都につくる。できれば高校大学一貫校で、役者、スタッフ部門を設ける。なぜ京都かというと、伝統工芸や芸能が根付いているからです。衣装や小道具などを通して、時代劇は伝統工芸と縁深い。京都の町を歩けば、歴史や伝統の技術があふれており、いわば生きた教科書。学校と町を一体化することで、時代劇の復興が産業の振興につながります」

京都の空気感が大切、10年後では遅い

何度もスケッチしたという八坂の塔。「電線などを消すといううそをついても描きたい」(京都市東山区)

 時代劇が描く武士道の精神を今こそ世界に発信する時だと考える。
 「世界で、日本人の持つ精神性が必要とされている。大震災が起きて、世界に映像が流れ、日本人がどんな状況が起きても整然としていることに世界が驚いた。暴動も略奪も起きない。背景に、人間の生と死の根本を教える武士道の精神があり、そのエッセンスは時代劇に詰まっている。

 日本の学校教育にも取り入れてほしい。偏差値を重視した戦後の教育の中で、精神的なものが軽視されてきたが、本当は人格形成が一番重要なはずです。例えば、悪いことをすれば、周囲にばれなくてもおてんとさんは見ているという思想。昔は自然に教えてもらったかもしれないが今は違う。それを時代劇の中で補えないでしょうか」

 映画発祥の地との誇りを持ち、京都人に動いてほしいと呼びかける。
 「時代劇が撮れるような町並みを保存してほしい。僕は旅先で絵を描きますが、絵はうそをつけるんですよ。電線を消し、アスファルトを土の道に変えられる。でも、うそをついても描きたくなる景色が京都にはたくさんあります。世界中を旅したけれど、こんなに絵心をそそられる町は京都だけですね。

 映画作品を仕上げるには町の空気感がとても大切なんです。京都の人は実感していないかもしれないが、東京のスタジオで撮るのと京都で作るのは全然違う。言葉ではなかなか説明できない部分ですが、その空気感は、京都人が生活している中から醸し出される。

 昔の俳優は、よく京都に育ててもらったといいました。技術も、空気感も、京都だから持っているものです。時代劇の復興は京都でないとできないし、地元の人が映画発祥の地だともっと誇りを持ってほしい。民衆の力で、国を動かしていく時です。10年後ではもう遅い」

えのき・たかあき

「時代劇は国のイメージアップや教育にも貢献できる。国が主導権を持って取り組むべき課題だ」

 1956年、鹿児島県生まれ。時代劇や映画に出演多数。2010年、自身企画の時代劇映画「半次郎」に主演。画家としても活動し、絵画展「榎木孝明とねこ・色いろ展」が3月7日から13日まで、大阪府高槻市の西武高槻店で開かれる。

【2012年2月4日掲載】