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火防稲荷

静かに地域見守る
寺院や民衆の防火の願いを込めて建立されたとされる火防稲荷(京都市伏見区醍醐)
 車が行き交う幹線道路の脇に、風格あるムクノキとエノキの大木がたたずむ。醍醐の火防稲荷(ひぶせいなり)は、大木の影で静かに地域を見守っている。
 言い伝えによると、応仁の乱のころ、醍醐寺を含めた地域の社寺や民家の兵火による焼失が続いた。当時の醍醐寺の高僧が「清浄の地に稲荷社をまつれ」と発案し、わき水が多く「無垢(むく)」に通じるムクノキの大木があった現地に建立されたと言われている。
 「以前は火を扱う酒蔵関係者の参拝も多く、初午(はつうま)には奉納された酒かすでかす汁接待を行っていた時期もあった」。今年稲荷社の世話にあたる「当家(とうや)」の森山傳市さん(72)=伏見区醍醐=は、田園の広がる昭和三十年代半ばの写真を手にかつての光景を語る。
 「虫の知らせか、失火があっても大きな火になる前に防げたことが多い」と森山さんは話す。「だが、これからのお世話が難しくなってきた」と次代の担い手不足に表情を曇らせる。今では当家もわずか三軒の回り持ち。道路脇の社は、どこか寂しげにたたずんでいる。

【2008年1月22日掲載】