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(2)猿寺縁起(京都市下京区)

正しい生き方説く
国内外の猿の人形がずらり。動物との共生の心を伝える正行院(京都市下京区)
 ビルが立ち並ぶJR京都駅前。その谷間に、浄土宗捨世派の正行院はある。猿寺の別名を持つこの寺は、円誉上人が約四百七十年前に開いた。
 昔、完又十郎という猟師が北山で大きな猿に出会った。弓矢で狙う又十郎を前に、猿は首の輪を引っ張りながら拝む。驚いた又十郎が「その首輪をよこせ。命は助けてやる」と言うと猿は首輪を置いて逃げた。首輪の中には竹の皮に包んだ紙切れがあり、何やら字が書いてある。又十郎が、道で坊さんに意味を尋ねると、字は円誉上人が書いた「南無阿弥陀仏」の名号だという。
 坊さんが言うにはこうだ。北山に庵(いおり)を結んでいた円誉上人は、動物をかわいがっていた。ある日、一匹の猿が上人のために自然薯(じねんじょ)を採ろうとして、がけから落ちて命を落とした。上人は猿を弔い、来世には人間に生まれ変わる仏縁を願い、山にいたほかの猿たちの首にお守りをつけてやった。この話に、殺生を重ねてきた又十郎は改心し、正行院の住職だった上人の弟子になった。
 この縁起から、正行院では円誉上人像のひざの上に合掌した猿の像をまつり、「見ざる」「言わざる」「聞かざる」「為(な)さざる」などの「八猿」を正しい生き方として説く。
 須賀賢道住職(七八)は「寺に猿はいるかと聞かれ、五百匹いると答えるとみんなびっくりしはる」と笑う。寺には、アマゾンの原住民に伝わる合掌猿など国内外の猿の人形がずらり。「知人や旅行者が買ってきてくれる」と話す。
 縁起が物語るのは、人と動物の関わり。「うちは、厄が『去る』とか御利益を期待されてもあきまへん。大切なのは人間はほかの生き物に生かされているということ、いわば『共生』を知ることです」
 いわれを聞いて訪れる人には、住職が寺の縁起をスライドなどで説明する。須賀住職は「猿のお守りがあるわけでもなく、商売っ気がないと言われる」と笑う。
 静かな境内には愛犬の鳴き声が響く。「この寺に犬猿の仲はありません」。住職の軽妙で優しい語り口が、円誉上人の教えを伝えている。
【メモ】正行院は京都市下京区東洞院通塩小路下ル。TEL075(351)7885。JR京都駅前から東へ徒歩5分。交通安全の「輪形地蔵」でも知られる。本堂内の参拝は、希望者の事前申し込みがあれば、住職が予定を調整して対応している。

【2006年11月2日掲載】

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