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(22)瀧尾神社の竜(京都市東山区)

迫力 「水飲む」伝説
極彩色はあせても精巧な彫りが迫力を伝える拝殿の竜
 瀧(たき)尾神社は、江戸中期に行商から大呉服商になり、今の大丸百貨店の礎を築いた下村彦右衛門が熱心に参ったのが縁で、下村家の援助で修復を重ねてきた。今の社殿は江戸後期の天保年間の完成。豊富な資金を背景にした再建で、拝殿の天井に極彩色の木彫りの竜が据えられた。
 「夜な夜な川へ水を飲みに行っている」「恐くて眠れない」。長さ八メートルの色鮮やかな体をうねらせる迫力ある姿に、当時、近所の人たちの間でそんなうわさが広がった。神社は拝殿の天井に網を取り付けて竜を閉じ込め、人々の気持ちをしずめた。
 佐々貴信美宮司(五一)は「文書にも残っていない言い伝えで、今では近所でも知る人がほとんどいない」と話す。神社は地域に氏子を持たないため人の出入りも少なく、言い伝えは時の流れで多くの人の記憶から消えた。合わせるように極彩色も色あせ、地肌がむき出しになっていった。
 「竜が水を飲むという話は、どこにでもありますから…」。佐々貴宮司は謙虚に話すが、内心には、言い伝えを鮮やかによみがえらせようという思いを抱いていた。
 拝殿建立から約百六十年後の二〇〇四年九月。その思いが実を結んだ。中国古来の「龍舞」を国内外のイベントで披露している鳥取県の「鳥取醒龍團(だん)」と縁がつながり、境内で舞う神事が始まった。
 龍舞では、長さが木彫りの三倍もある二十五メートルの竜が躍動し、水の代わりにたる酒を飲む場面を演出した。かつて神社を管理していた泉涌寺でも舞った。
 再現の立役者となった鳥取醒龍團の谷尾洋介團長(四九)=鳥取市=は「神社や寺で舞ったのは初めて。ピリッとした気持ちになった」と振り返り、佐々貴宮司は「未来永劫(えいごう)続けたい」と意気込んでいる。
 瀧尾神社は龍舞のほかにも、近年、神輿(みこし)を新調して祭りを復活させ、絵馬に残るキツネ面の行列も再現した。盆踊りでは地域の人たちが出す夜店が増えた。長い間、地域とのつながりが弱く訪れる人もまばらだった神社で、新たな物語が始まる様子を、木彫りの竜が静かに見守っている。
【メモ】瀧尾神社は京都市東山区本町11丁目。拝殿は無料公開しており間近に見られる。「扉のかんぬきを外し、備えているスリッパで上がってほしい。マナーは守って」と同神社。竜が水を飲みに行ったと言われた今熊野川は神社のすぐ北を流れるが、今は暗渠(きょ)になっている。拝殿以外の社殿でも十二支の木彫りなど豊富な装飾が見られる。TEL075(531)2551。

【2007年1月5日掲載】

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