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(30)釘抜地蔵(京都市上京区)

苦しみ解消 願掛け
苦しみを抜き取る御利益がある「釘抜地蔵」の本堂。壁面には八寸釘と釘抜きの絵馬が奉納されている(京都市上京区)
 このお地蔵さまには苦しみや痛みを抜き去る御利益があるという。「苦抜(くぬき)地蔵」とも呼ばれる。
 それは戦国時代のことだった。紀の国屋道林という都でも有数の商人がいた。四十歳。何の前触れもなく、両手が痛み出した。痛みに耐えかね、治療を尽くした。けれどそのかいなく、痛みが続く。病名も分からない。霊験あらたかなお地蔵さまに願掛けした満願の夕べ。お地蔵さまが夢に現れ、こうお告げになった。「この痛みは病ではない。おまえの前世が人をうらみ、人形を作って両手に八寸の釘(くぎ)を打ってのろった。その罪が返ってきて、おまえの身に苦しみを与えている」
 夢告はさらに続く。「幸いにもおまえはわたしのところに来た。神力をもって、そのうらみの釘を抜き取ってやろう」
 夢から覚めると、両手の痛みは消えていた。驚いた道林は急いで寺に向かい、お地蔵さまが安置された厨子(ずし)の前に伏して拝んだ。すると朱に染まった二本の八寸釘があった。それからというもの、道林は百日を期して日参し、少しでも恩に報いたという。
 お地蔵さまを安置する本堂の外壁には、八寸釘が二本と釘抜きを取り付けた絵馬が、すき間なく張り付けられている。言い伝えにちなみ、お地蔵さまにお参りした後、御利益があったときだけに奉納が許される。加藤廣隆住職(六四)は言う。「苦しみは釘のようなもの。悩んだり、苦しんだりすると、釘が刺さったような気持ちになる。お地蔵さまとのかかわりのなかで、願いが成就した方だけに奉納していただいています」
 お千度で本堂をぐるぐるとまわったり、仏具の五鈷杵(ごこしょ)をなでて手を合わせたりする人…。科学万能の時代にも、信仰心は生きている。
 「大将、お参りの仕方を知らんのか。教えたろ」。本堂をのぞき込んでいると、お寺に二十年も奉仕しているというおばあちゃんに不意に声をかけられた。「あのなあ。このひもはお地蔵さんにつながってて、これをにぎってから拝むんや。右にあるのが五鈷杵で、左のが…」。難しいお経とか教義とかではない。信徒の純朴な心こそが、地蔵信仰を支えている。
【メモ】釘抜地蔵は上京区千本通上立売上ル。819(弘仁10)年に真言宗の開祖・空海(弘法大師)が開創したと伝わる。境内には空海手掘りといわれる京都三井の一つや平安時代の歌人・藤原家隆、定家、定長の供養塔がある。地蔵のある石像寺は現在、浄土宗の寺院で、毎月24日が縁日。

【2007年1月23日掲載】

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