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(50)千本釈迦堂のおかめ塚(京都市上京区)

円満願い信仰集め
夫婦円満の御利益があるとされるおかめ塚(右)と多福像(京都市上京区七本松通今出川上ル)
 ふくよかな笑みをたたえる女性は、夫のために命をなげうった。そんな計り知れない夫婦の愛の物語が、京都市上京区の千本釈迦堂に伝わる。  度重なる戦火を逃れた国宝の本堂。その建立が進む八百年ほど前(鎌倉初期)に、物語の舞台はさかのぼる。
 現場を仕切るのは京の大工、長井飛騨守高次。腕前を寺に買われた。ある日、誤って柱材四本のうち一本を寸法より短く切ってしまった。あちこち探しても、適当な材は手に入らない。困り果てた夫に、妻のおかめは「切った木は戻らない。いっそ柱を全部短くして、斗組(とぐみ)を付けたら」と勧めた。
 「そうか」「柱の上部に細長い材や四角い材を組み合わせて軒を支えよう」。ひらめいた高次はやる気を取り戻し、軒や天井をより安定させる柱組みで本堂を仕上げた。
 しかし、おかめの心は晴れなかった。「妻の機転に救われたと世間に知れたら、夫の名声に傷がつく」。上棟式を前に自害した。嘆き悲しむ高次。亡き妻の顔や優しい心をお面に彫り込み、三本の扇子とともに棟札の上に掲げて、一緒に完成を祝った。
 本堂前に立つ江戸時代の石塔は「おかめ塚」と呼ばれ、夫婦や家庭の円満、建築の安全を願う人たちの信仰を集める。隣で、おかめのブロンズ像(多福像)が穏やかにほほ笑んでいる。
 おかめのお面は、かつては母親が嫁ぐ娘の荷物にそっと忍ばせた。今も新婚家庭に贈られる。菊入卓如住職の妻照如さんが、その「美人顔」に込められた徳を説明する。
 張り出した額は、上ばかりを見て不満を言わずに感謝する徳。下がり目は、日々穏やかに暮らす徳。左右のほおより低い鼻は、両親を大事にする徳。そして、小さな口は多弁を慎む徳だという。
 ハネムーン直後の「成田離婚」に、定年間近の「熟年離婚」。昨今は、夫婦間の悲惨な殺人事件も世間を騒がせる。「一寸先が分からない時代だけに、穏やかなおかめと向き合い、心の鬼を変えなくては」。照如さんは強く願っている。
 三月下旬には、境内のおかめ桜が咲き始める。地面すれすれに垂れ下がる枝は、着物のすそが流れるさまを映すという。
【メモ】千本釈迦堂は通称で、正式名は大報恩寺。2月のおかめ福節分会では、おかめの笑みで鬼が改心する狂言を演じる。地下鉄・今出川駅から北野天満宮行き市バスに乗り、上七軒で下車。徒歩5分。拝観は午前9時―午後5時。拝観料500円。TEL075(461)5973。

【2007年3月1日掲載】

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