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(62)牛鬼と丑の刻参り(京都市左京区)

呪いは絶対やめて
牛鬼をまつると言い伝えられる牛一社(京都市左京区・貴船神社)
 口は災いの元という。
 京都市街地から北に十キロ余り。緑深い谷沿いにある貴船神社には、鎮座にかかわる伝承がそうした訓話の形で残っている。
 太古。貴船山中腹の鏡岩に貴船大神が降臨した。付き添いは鬼面の牛鬼こと仏国童子である。ところが口が軽く神界の秘事を広める童子の振る舞いに怒った大神が、童子の舌を八つ裂きにした、というのだ。
 神社の三木金房禰宜(ねぎ)(五五)は言う。「社家である舌家の縁起として神社に伝わっています」
 舌は、よく使えば理を弁じ、和を結ぶ。しかし悪用すれば、秘密を漏らし、災いをもたらす。祖先の業を忘れないために「舌」という名字をつけたというわけである。
 筆頭社家であった舌家は、神社の多くの出来事にかかわった。「中でも江戸時代、上賀茂神社との争議で活躍した舌左司馬は特記される人物です」
 貴船神社は、平安時代に上賀茂神社の摂社になった。江戸時代、独立のため貴船神社は訴訟を起こす。神社の由来など古典に博覧強記である左司馬は、上賀茂神社の神官を次々に論破した。まさに「理を弁ず」舌家の面目躍如であろう。舌家は今も貴船に残る。
 伝説では、貴船大神が牛鬼を連れて降臨したのは「丑(うし)年の丑月の丑日の丑刻」とされる。これがある伝承を結びつき今に伝わる。
 丑の刻(とき)参りである。
 白装束に、口紅は濃く、頭の鉄輪にろうそくをともし、わら人形に五寸くぎを打ち据える。牛鬼のごとき形相で相手を呪う法だ。
 もとは「平家物語」の「宇治の橋姫」にある。恨みを抱く娘が貴船神社にこもり鬼になる話である。これが謡曲「鉄輪」へ発展した。両説話には、くぎも人形も出てこないが、民間に伝わる中で陰陽道(おんみょうどう)の呪詛(じゅそ)法などと混ざったらしい。
 神社は恋愛成就の神さまとして知られる。交通が不便で観光シーズン外、平日という条件にもかかわらず、境内には多くのカップルが祈りをささげている。しかし、夜には相手をのろうため五寸くぎをわら人形に…。
 「大きな誤解です。ご降臨の伝承からも丑の刻参りとは心願成就の参拝方法。人をのろわば穴二つと申します。のろいは絶対におやめください」
【メモ】貴船神社TEL075(741)2016は、京都市左京区鞍馬貴船町。叡山電鉄鞍馬線貴船口駅下車、京都バスに乗り換え、貴船バス停下車。水の神様として知られる。平安時代、和泉式部が神社に参詣して恋愛成就を祈り、願いがかなえられたとの伝えから、縁結びの神として崇敬される。

【2007年3月23日掲載】

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