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(69)上賀茂のあふひ伝承(京都市北区)

葵が母子の縁結ぶ
玉依比売命をまつる片山御子神社。約1000年前には紫式部もこの社の前で和歌を詠んでいる(京都市北区・上賀茂神社)
 賀茂別雷(わけいかづち)大神を祭神とする京都市北区・上賀茂神社の境内には、神事に赴く神職が本殿に入る前に必ず一礼していく場所がある。大神の母・玉依比売命(たまよりひめのみこと)をまつる片山御子神社(片岡社)だ。山城国風土記逸文などの古文書には、上賀茂神社のシンボルになっている葵(あおい)が、母子の縁を結んだ植物として登場する。
 玉依比売命は、上賀茂一帯を治めていた賀茂県主(あがたぬし)族の祖神、賀茂建角身命(たけつのみのみこと)の娘に当たる。ある日、玉依比売が賀茂川で川遊びをしていると、朱塗りの矢が流れてきた。拾い上げて持ち帰ると、矢に神の力を感得して身ごもり、男の子を産んだ。
 建角身命はあらゆる神々を招いて宴を開いた席上、「父親と思う者にこの酒を飲ましめよ」と男子に杯を渡す。すると、男子は「われは天神の御子なり」と叫んで杯を上に向かって投げ、そのまま天に昇って賀茂別雷命となった。玉依比売は嘆き悲しみ、男子への思いを募らせる。ある夜、夢の中に男子が立ち「葵楓(あおいかつら)の蔓(かずら)をつくり、飾って待てば現れる」と告げる。その通りに祭事を営むと、社殿の北北西にある神山に賀茂別雷命が降臨したという。
 葵の語源「あふひ」は、わが子に会いたいと願い、葵を飾った玉依比売命の神話に由来している。毎年五月十五日の葵祭(賀茂祭)に参加する人々が、カツラの枝にフタバアオイを差した飾りを身につけているのも、この神話に基づいている。
 かつては、境内を緑豊かに覆っていたフタバアオイも、時代とともに数が激減してしまった。母子の縁を結んだフタバアオイの緑をもう一度取り戻そうと、地元の小学生や地域住民たちが「葵プロジェクト」と名付け、フタバアオイの株を増やす取り組みを始めた。田中安比呂宮司(六五)は「文化や伝統の継承は、先人たちの大変な努力で守られてきた。今の時代こそ母が子、子が母を大切にする思いを伝えていきたい」と話す。
【メモ】上賀茂神社=TEL075(781)0011=へは、市バス「上賀茂神社前」下車すぐ。境内にある約200本の桜は15日ごろまでが見ごろ。2015年の「式年遷宮」に向け、社殿の屋根ふき替え用にひわだの奉納(1枚1000円)を受け付けている。

【2007年4月5日掲載】

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