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(71)大山の明神さん(福知山市夜久野町)

水への思い 伝説に
水の神をまつる祠。「村人の水に対する思い、自然を愛し万年豊作を祈る思いが込められています」(福知山市夜久野町)
 京都府北西部に位置する福知山市夜久野町は、面積の八割を森林が占める山間地だ。副谷と門垣地域にまたがる標高四一六メートルの大山の中腹、農道から山道へ十五分ほど歩くと、水の神をまつる「大山の明神さん」と呼ばれる小さな祠(ほこら)が立っている。
 縦横各一メートル、高さ二・五メートル。わらぶき屋根のわらの厚みは約二十センチ。堂々としたたたずまいが目をひく。引き戸の奥をライトで照らすと、「昭和六年再建 瀧大明神」と書かれた札が見えた。
 案内してくれた郷土史家の上田陽一さん(六〇)が「江戸時代からあるそうです」と表情を和らげ、夜久野に伝わる昔話を語り始める。
 ある日。山で伐採中の村人が、こちらをにらむ白ヘビに気付いた。おので切りつけると、傷を負い、どこかへ逃げた。翌朝、波の音で目覚めると村は湖と化していた。谷間に大蛇が横たわり、上流からの水をせき止めている。産土神(うぶすながみ)としてまつると誓うと、ヘビは消え、水も引いた。村人は総出で約束を果たした−。
 副谷、門垣地域は直見川の下流に位置する。一九六〇年代にほ場整備されるまで、上流の集落と水争いが絶えなかった。農業に欠かせない水を大切に、との先人の教えが物語を生んだのだろうか。上田さんは「干ばつに困り、祠で雨ごいをすると、雨が降ったこともあります」と話す。
 両地域は現在も、五月の第一日曜日に祠のわらをふき替える。わらにヘビが潜んでいた年は豊作になると言い、実際に二〇センチほどの白ヘビが姿を見せた年もあるという。
 「今年も神様がおんなった。ありがたや、とみな手を合わせて拝むのです」。作業後は、酒と山菜料理を囲み、世間話に花が咲く。「仕事に追われる生活の中で、村祭りの役割もあったのでしょう」
 米の収穫が手作業から機械に変わり、わらは集まりにくくなった。テレビの普及で家族の会話も減り、水争いなどの体験も自らの子や孫に伝えきれていないと思うお年寄りも多い。「だからこそ地域をあげて、昔ながらの行事で古里の歴史を語り継がないといけない」。昨年整備した山道を下りながら、上田さんが力を込めた。
【メモ】大山の明神さんは、JR上夜久野駅から北東へ約3キロ。京都駅から福知山駅まで特急で1時間半、同駅から上夜久野駅まで15分。今年のわらのふき替え作業は、5月6日午前9時−正午。見学自由。近くに温泉を含む交流拠点施設「農匠の郷」もある。上田さんTEL0773(38)0101。

【2007年4月10日掲載】

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