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(80)耳だれ不動(大津市)

耳の病に信仰深く
信仰を集め、全国からお参りに来る「耳だれ不動」(大津市大石富川町)
 桜の花びらが流れる国道422号沿いの大津市大石富川町の信楽川。そこに架かる岩屋不動橋を渡り、勢多川漁協の事務所の横道を通って、やや急な山道を五分ほど上ると、高さ約二十メートルの岩盤がそびえるのが見えてくる。
 「耳だれ不動」と呼ばれるのは、その岩盤に刻まれている磨崖仏(まがいぶつ)だ。中央の高さ約六メートルの阿弥陀(あみだ)如来像が本尊だが、「耳だれ如来」ではなく、なぜか、「不動」と呼ばれるようになったという。右側に観音、左側には勢至の両菩薩(ぼさつ)、左の下に不動明王が彫られている。
 大津市の史料などによると、鎌倉時代に作られたとされ、阿弥陀如来の右耳のあたりの割れた岩肌から鉱水が流れ出て、赤茶色に変色している。これが耳だれのように見えることから、人の身代わりになって耳の病気を治す仏様として、信仰を集めるようになったという。
 「子どものころ、水泳で中耳炎になった時、母に連れて行ってもらいましたよ。病院に行くより近いし、願をかけに行ったんです」。地元の上坂勝見さん(六七)が遠い昔を振り返る。
 花や酒が供えられているのが目立つが、阿弥陀如来像の真下には、三百本ほどのキリが、ひっそりと奉納されている。
 キリは、お参りに来た人が、一本を家に持ち帰り、耳を軽くつつく。何日も繰り返して病気が治ったら、新しいキリを一本買って、お礼参りに来て供える風習になっているという。キリには、「耳炎がなおりますように」、「耳がよくなり、ありがとうございました」などと、信仰する人々の思いが書かれている。
 勢多川漁協の理事田中豊さん(六九)によると、大津市内の病院で手術をする予定だった男性が、お参りに来た後に全治したため、手術をしなかったというエピソードもある。以後、その男性は、毎月お礼のお参りに来る、という。
 以前は地元の住民らが多かったが、最近では、青森や鳥取などからも訪れるという。上坂さんは「全国的に知られるようになったものの、地元でも歴史を知っている人は少なくなった。でも信頼してきたし、地元で守っていきたい」と、話す。
【メモ】「耳だれ不動」は、富川磨崖仏・岩屋不動とも呼ばれる。JR石山駅から京阪バスで、宮前橋下車、さらに徒歩で40分。問い合わせは石山駅前観光案内所TEL077(534)0706。

【2007年4月25日掲載】

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