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(110)さかれんげ(京都市中京区)

女性の救いを象徴
女性の信仰を集める安養寺の「さかれんげ」。台座の蓮華の花弁が下向きになっている(京都市中京区新京極通蛸薬師角)
 衣料品店や土産物屋が並び、若者や修学旅行生たちでにぎわう繁華街の新京極。談笑しながら女性たちが行き交う蛸薬師通に面して、「さかれんげ阿弥陀(あみだ)如来」と刻んだ石碑がひっそりとたたずんでいる。
 古くから「女人往生」で信仰を集める安養寺。境内に一歩入ると、まちなかの喧噪(けんそう)はうそのように消える。静寂が包む二階の本堂に、阿弥陀如来像を安置している。足元を見ると、台座になっている蓮華(れんげ)の花はなぜか下向きに咲いている。
 寺伝によると、平安後期、旅の老僧がひと晩の宿を請うて安養寺を訪れた。老僧は「仏を作る」と言う。寺に居住していた安養尼が材木を渡すと、老僧は部屋に引きこもった。夜中、のみやつちをたたく音が響く。朝、安養尼がとばりを開けると、老僧の姿はなく、光明を放つ阿弥陀如来像が出来上がっていた。
 安養尼は感謝し、仏師に蓮華の台座を作らせたが、仏像を置くたびに台座にひびが入る。安養尼は悩み、春日権現に祈ると、あの老僧が現れた。「この仏は女人往生の証拠仏です。八葉の『さかれんげ』を台座にしなさい」。早速、さかれんげの台座を作り、仏像を安置することができた。
 安養寺の北川隆法住職(七六)はさかれんげの寺伝をこう解説する。「昔の習俗に基づいた信仰では、往生の際、男性は心の中で上を向いたハスの花を咲かせるが、女性は下向きに咲かせると言われ、女性は虐げられた存在だった。反対に、阿弥陀の平等思想は男女の差別なく往生できることを教える。さかれんげと阿弥陀如来を象徴的に見せることで、分け隔てなく救われることを分かりやすく伝えたのだろう」
 安養寺は洛陽六阿弥陀巡拝の一つで、無病息災を願いながら寺巡りを楽しむ中高年が訪れる。その一方で、数珠をかたく握りしめ、一心不乱に阿弥陀如来にすがる若い女性もいるという。
 北川住職は「時が流れても、その時代に応じた悩みと、『救われたい』という祈りがあることに変わりはない。人と人とのきずなが弱い現代にあって、今の女性は一見幸せそうに見えても、苦しみは増しているのではないか」と語る。
【メモ】安養寺は京都市中京区新京極通蛸薬師角。TEL075(221)4850。午前7時から午後8時半ごろまで、蛸薬師通に面した薬医門が開いており、2階の本堂に安置されている阿弥陀如来像を参拝することができる。安養尼は恵心僧都(えしんそうず)の妹。安養寺には、弁財天や北向地蔵尊も安置されている。

【2007年6月20日掲載】

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