京都新聞TOP > 観光アーカイブ >ふるさと昔語り
インデックス

(129)橋姫伝説(宇治市)

縁切りのシンボル
小さな鳥居の内側にひっそりとたたずむ橋姫神社(宇治市宇治)
 二〇〇八年に千年紀を迎える紫式部の源氏物語。宇治は最後の十話「宇治十帖(じゅうじょう)」の舞台となる。その宇治十帖の第一話のタイトルにもなった「橋姫」にはさまざまなエピソードが秘められる。
 宇治市宇治の県(あがた)通の大鳥居をくぐり抜け南下すると、民家の脇に、見過ごしてしまいそうになる橋姫神社は、橋姫ゆかりの古跡だ。
 橋姫とは、橋の守り神で、同神社は一八七〇(明治三)年に洪水で流されるまでは宇治橋西詰にあった。さらにさかのぼると、橋ができた六四六(大化二)年当時は橋上の「三の間」に鎮座していた。
 橋姫を有名にしている伝承は「平家物語」剣巻。嵯峨天皇の時代に、夫の女性関係に悩んだ公家の女が、相手の女をねたみ、貴船神社に詣でる。「生きながらに鬼となって、報復したい」と祈ると、二十一日間、宇治川に漬かっていれば鬼になると託宣があった。そこで女は託宣を実行し、鬼になり、相手の女を取り殺した。
 そこから同神社は、嫉妬(しっと)深く、仲の良い男女をのろい殺すという、縁切りの神として信仰を集め、いつしか男性との仲を絶ちたいと願う女性が訪れるようになった。つい最近まで、神社横に暮らす山田六郎さん(二八)の亡き祖母が相談を受けていたが、ストーカーから不倫まで、悪縁を絶ちたいと願う人が相談に訪れたという。
 一方で、源氏物語の「橋姫」には、橋姫が登場しない。光源氏の子(実は柏木の子)薫と孫の匂宮、薄幸の姉妹・大君と中君の恋物語が展開される宇治十帖の幕開けの帖に、嫉妬の鬼女が入る余地はない。
 しかし、宇治市源氏物語ミュージアム館員の西山恵子さんは、薫への思いを内に秘めたまま後に死んでいくヒロインの大君と鬼になった橋姫は、「男性を思う熱い気持ちでは変わらなかった。橋姫は登場しないが、作者の紫式部は、大君に橋姫を託したのでは」と想像する。
 同神社は九一年から、秋の「宇治十帖スタンプラリー」のコースになった。かつて縁切りのシンボルとして、名をはせた場所は、いまや老若男女が次々に訪れる源氏ロマンの観光スポットに変わりつつある。だが、そんな中でも、悪縁退散を願う人々が境内に飾った千羽鶴は絶えず、橋姫の伝説を世に知らせている。
【メモ】橋姫神社は宇治市宇治蓮華。JR、京阪両宇治駅から徒歩約10分。同神社は川の神、瀬織津比ビ(せおりつひめ)を祭神とする。境内には同じく水の神である住吉神社がまつられている。入り口の鳥居をくぐると、右手の覆い屋根の下に、両神社の神殿が並んでいる。

【2007年8月1日掲載】

各ページの記事・写真は転用を禁じます。著作権は京都新聞社に帰属します
ネットワーク上の著作権について 新聞・通信社が発信する情報をご利用の皆様に(日本新聞協会)
電子メディアおよび関連事業における個人情報の取り扱いについて
京都新聞TOPへ