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(133)蛇ヶ淵(京丹波町長瀬)

雨祈る娘、大蛇に
巨大な岩の割れ目から清らかな水が流れ落ちる(京丹波町長瀬)
 由良川沿いの険しい山肌を下っていくと、せせらぎの音が涼風を運んできた。巨岩の割れ目から、清らかな一筋の滝が流れ落ちている。
 京丹波町長瀬は、水が乏しく、干ばつにさいなまれてきた集落だ。今でも地元には雨ごいの伝統行事が継承されており、毎年八月七日には、男衆が先達に連れ添って蛇ヶ淵(じゃがぶち)に詣で、たいまつをたき、般若心経を唱える。
 この蛇ヶ淵には、雨ごいに関する悲しい伝説が残っている。
 江戸時代中期、村は何十年ぶりかの干ばつに襲われ一滴の雨も降らず、畑は地割れしていた。そんな折、農家の美しい娘が毎晩、家を抜け出すのを不審に思った父親が、ある晩、娘のあとを追った。娘は険しい山道を下り、蛇ヶ淵の滝に打たれ、願をかけていた。
 「毎晩、滝に打たれることで、竜になって空に舞い上がり、雨を降らせる」という切ない願い。だが、願掛けの満願の日に父に見られてしまった。娘は由良川の対岸の山を登り、大池(現在の南丹市日吉町畑郷)の縁で蛇になり、姿を消したという。
 その数日後、地元の猟師が大池のほとりで休憩していると突然、水面が大きく揺らぎ大蛇が姿を現した。大蛇は懇願する。「雨ごいの願をかけ、竜になることを試みたが、満願の日に父に見られ、願いがかなわなかった。いっそ撃ち殺してほしい」と。
 猟師は哀れに思い、引き金を引く。大蛇は果て、空が割れんばかりのとどろきとともに、稲妻が走り、大雨が降り出したそうだ。
 長瀬で生まれ育った農業竹内透さん(五九)も、曾祖母から「美しい娘が竜になって雨を降らせた」という話を聞いた思い出がある。十年ほど前の夏、日照りが続いていた。凶作を懸念した村人たちが蛇ヶ淵に詣でた。「不思議と雨が降ったんです」と、竹内さんは感慨深げに振り返る。
 大蛇が果てた時、飛び散ったうろこが畑郷の玉応寺に残っていると伝わる。玉応寺の細川俊彦住職(七六)は「先代から話は何度も聞いたが、うろこを見たことはない」と話す。その存在は定かでない。とはいえ、蛇ヶ淵は、けなげな娘の魂を宿すかのように、今日も清らかな水をはぐくみ続けている。
【メモ】京丹波町長瀬地区は、同町と南丹市美山町の境付近にある集落。蛇ヶ淵は長瀬の国道27号を南にそれ、約50メートル山道を下った、由良川支流の塩谷川沿いにある。

【2007年8月8日掲載】

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