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(135)電気の神様(京都市西京区)

技術の進歩に霊験
 山門をくぐると、青々としたモミジのトンネルと石段が続く。山腹の古寺の情緒を感じながら歩くと、小さなほこらの鳥居に「電電宮」とある。どこか現代的な響きに、思わず足を止めた。
 観光客でにぎわう渡月橋の近く、法輪寺(京都市西京区嵐山虚空蔵山町)の境内に、電電宮は鎮座する。祭られている電電明神は、珍しい電気の神様だ。情報通信やソフト開発の技術者、IT(情報技術)企業の管理職といった電気に関係する幅広い人に信仰されている。祈願のお札には「通信ネットワークの安定運用」「衛星の無事運行」などと書かれ、最先端技術の成功も最後は「神頼み」という切実な思いが伝わる。
 由来をたどると、古く平安初期にさかのぼる。法輪寺の前身である葛井寺で起きた、ある霊験が起源となっている。
 八二九年、弘法大師の弟子の道昌が百日間の修行を行い、満願の日に井戸で水をくんでいた。天空から明星が落ちてきて衣の袖に飛び移り、虚空蔵菩薩(こくぞうぼさつ)の姿が浮かび上がった。修行の成功を確信した道昌は、大空や宇宙を象徴とする虚空蔵菩薩の像を彫り、本尊として寺に祭った。そして、別に鎮守社「明星社」も建てられたという。
 明星社は雨や雷、光など、自然現象に関する信仰を集めるようになったが、蛤御門の変(一八六四年)で焼失した。しばらく仮宮のままになっていたが、生活に家電が普及し始めた一九五六年、電力会社や放送局、電器販売などの関係者が社業の繁栄や職場の安全を願い、電電宮を建てた。
 再建から半世紀。エレクトロニクスの進化は目覚ましく、人々の生活は便利さを増した。一方で、さまざまな社会問題も噴出している。電脳犯罪のまん延、電力会社で相次ぐ不祥事、電気製品の欠陥、多くの命を奪った列車事故…。法輪寺の藤本高仝(こうぜん)副住職(四八)は「文明と人間は進歩せざるを得ない宿命にある。でも技術は、自分の生活を豊かにするのと同時に、その恩恵を他者にも与えるためにある」と語る。
 小高い境内から見渡すと、大堰川が望める。かつて道昌が大陸の技術を駆使して堰(せき)を築き、荒れ地を田畑に変えたと伝わる。今、その地はすっかり住宅街になっている。
【メモ】道昌が自ら彫ったとされる虚空蔵菩薩像は、今も法輪寺TEL075(861)0069の本堂に安置され、体内には満願成就に菩薩の姿が浮かんだ衣の切れ端が納められている、と伝わる。電電宮では毎年5月、電気通信業界の関係者が先人の功績と業界の発展を祈る大祭を営んでいる。

【2007年8月10日掲載】