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(145)松原の道祖神(京都市下京区)

道の安全を見守り
まちなかにひっそりとたたずむ松原道祖神社。毎日訪れるお年寄りもいる(京都市下京区)
 街の片隅にたたずむ小さな松原道祖神社。鳥居をくぐると清掃が行き届き、ろうそくに火がついていた。地域の人がこまめに訪れ、神社を守っていることが伝わる。
 表に掛かる木板には「平安京以前より当地にて道の神・塞(さい)の神(厄災を塞(ふさ)ぐ)として崇(あが)め祀(まつ)られて来ました」と書かれる。歴史の古さを裏付ける話が、鎌倉時代の説話集「宇治拾遺物語」に残っている。
 −道明阿闍梨(あじゃり)というお経を読むのが上手な僧がいた。女性が好きで、和泉式部といい仲になり、毎晩のように通った。
 ある日、式部の家で夜に目が覚め、読経をしていると人の近づく気配がした。「だれだ」と尋ねると、「五条西洞院に住むおきなです。今夜は結構なお経を聞けありがとうございました」と言う。
 「なぜ」と道明が聞くと、おきなは「普段は身を清めて読経されるので梵天(ぼんてん)や帝釈天など高貴な方が聴聞されるが、今夜は行水もせず読経されたのでわたしでも聞けました」と答えた−。
 僧侶への戒めを説いた話だが、ここに登場するおきなが五条の道祖神だといわれている。
 神社がある松原通は平安時代には「五条大路」とされ、清水寺への参道としてにぎわったという。道や旅の神とされる道祖神がまつられていても不思議はない。
 神社は現在、地元の藪下町と富永町の有志で宗教法人をつくり管理している。住民が交代で清掃し、春と秋の年二回の祭りには近くの五条天神宮から神主を呼び祝詞をあげている。
 寄付者名を刻む石の玉垣に「−貨物」「−運輸」との会社名が目についた。「道の神」に運送会社がこぞって寄付するのかと思いきや、宗教法人代表の中村正義さん(七〇)が「昭和三十年代ごろまで、この一帯は室町の問屋街で運送会社が多かったためでしょう。今はほとんど名神高速が通る京都市南部に移りましたが」と教えてくれた。
 中村さんが営む神社そばの印判店は「社務所」で、父も宗教法人代表を務めた。「大きい神社ではないが、毎日お参りにくる人もいる。これからも地域で守りたい」と中村さん。周辺の交通環境こそ変わっても神社は、今も道行く人の安全を見守っている。
【メモ】神社は戦前は民家の敷地内にあったが、1945年の終戦直後に寄贈を受けたという。神社についての記述は平安時代の説話集「今昔物語」にも残っている。道の神以外にも夫婦円満、縁結びの神としても信仰されている。京都市バス西洞院通松原下車東へ約50メートル。

【2007年8月30日掲載】

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