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(200)阿刀氏塔(京都市北区)

肺病の治癒に信仰
肺病を治す加持祈とうで信仰を集めた阿刀氏塔(京都市北区紫野十二坊町・上品蓮台寺)
 千本通に沿って静かな境内が広がる上品蓮台(じょうぼんれんだい)寺は、真言宗智山派(総本山・智積院、京都市東山区)の古刹(こさつ)。西陣方面から北へ向かって歩くと、坂道がきつくなる高台にある。
 境内の墓地の一角には、弘法大師・空海の母の墓とされる「阿刀氏(あとし)塔」が立っている。五輪石塔で、由緒書はないが、阿刀氏は空海の母の家系。高さは約二・五メートルあり、船岡山の木々を背景に、立ち並ぶ墓石の中でも、ひときわ目立つ。
 この石塔はかつて、肺病祈願で知られた。慈悲深かった空海の母にちなむらしい。「京都・山城 寺院神社大事典」(平凡社)によると、石塔の前で、病人が身に触れた衣服を祈とうして焼き、その灰を飲むと全快したという。治療方法がなかった時代、切実に回復を願う庶民の姿が目に浮かぶよう。今では訪れる人もないが、山門の北脇にひっそりと置かれた「大師母公跡 肺病平癒霊塔」の石碑が名残を伝えている。
 寺庭(じてい)(住職夫人)の高井佳子さん(52)は十四年前、肺を切る手術をする際、先代住職から「阿刀氏塔に参っておいで」と言われ初めて、かつての信仰を知ったという。「最近はほとんど知られていません。昔は肺病に効く薬もなかったからでしょう」と話し、一九一三(大正二)年当時の住職が記した文書を見せてくれた。
 「病衣焼除 患者ノ衣類腹巻等墓前ニ於テ加持シテ焼除セシム 最モ信者ノ姓名年齢ヲ記シ大師霊前ニ平癒祈念ヲスル事」−。きちょうめんな筆遣いで記されており、祈とうの作法も定められていたようだ。
 阿刀氏塔がなぜこの寺に建てられたのかは定かではない。ただ、空海が開いた東寺(南区)から、ほぼ七キロ真北に位置し、市内にビルが立ち並ぶ前は、上品蓮台寺から東寺の五重塔が望めたという。
 上品蓮台寺は別名「十二坊」という。かつて十二の塔頭があった名残で、寺に伝わる絵図には千本通の両側に寺が立ち並ぶ様子が描かれている。現在の塔頭は三カ寺だが、地名には「十二坊」が残っている。
【メモ】上品蓮台寺は聖徳太子の創建と伝えられ、当初は香隆寺と称した。宇多法皇の勅願で再建され、上品蓮台寺と改められたという。境内には、謡曲や歌舞伎の演目で知られる「土蜘蛛(つちぐも)」に登場する源頼光の塚があり、芸能関係者の参拝がある。また、平安時代の仏師定朝の墓があり、毎年、命日に京都佛像彫刻家協会と京都仏具協同組合が法要を営んでいる。

【2008年1月9日掲載】

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