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(202)はてなの茶碗(京都市東山区)

帝も登場 京の落語
観光客でにぎわう音羽の滝と茶店(右)。「はてな」と茶碗に見入る茶金と油屋の様子が目に浮かぶようだ(京都市東山区・清水寺)
 物の値打ちは不思議なもので、外見はぱっとしないのに、高い値札が付くと、途端にありがたく思えてくる。二束三文の品がふとした弾みで何十倍もの値につり上がる。それほど物の値段とはいい加減なもの−と教えてくれるのが「はてなの茶碗」。清水寺を舞台に始まる古典落語だ。
 江戸時代、目利きで有名な茶金さんという道具屋がいた。ある日、名水で知られる音羽の滝近くの茶店に腰を下ろし、飲み終わった茶碗をのぞき込んだり、裏返したり。「はてな」と一言つぶやき立ち去った。
 これを見ていた油屋さん。掘り出し物に違いないと二両で茶店から買い取る。すぐに茶金の店に行き、値付けを頼むが、「どこからか水が漏るので首をかしげただけ」。文無しになって落胆する油屋に同情し、茶金は三両で買ってやる。
 ところが、茶金がこの話を退屈していた公家にすると、「面白き茶碗」として「清水の音羽の滝のおとしてや 茶碗もひびにもりの下露」と一首したためた。噂が噂を呼び、ついに時の帝(みかど)までが「波天奈」と箱書きして−。
 「茶店から御所にまで話がどんどん膨らむ、京都ならではのネタ。面白さに加え、大阪と京の商人の気質の違い、旦那の品格も求められる」と京都在住の落語家桂米二さん。師匠の米朝さんの得意ネタとしても有名だ。
 音羽の滝のそばで茶店を営む男性は「架空の話なのに、京都だったらありえそうだと思わせる。たまに落語家の方も話を聞きにくる」と話す。
 近くの産寧坂に面した老舗茶器店では、噺(はなし)に登場する歌や「はてな」と書いた茶碗を作り、静かな人気商品に。「元は注文を受けて焼き始め、今は落語好きの方が喜んで買われる。さすがに水は漏れません」と同店の谷口嘉一さん(36)は笑う。
 さて、えらい箔(はく)が付いた茶碗は大阪の豪商が千両で買い上げ、油屋は五百両を得る。後日、店前での大騒ぎに茶金が出てくると、油屋は「今度は十万八千両の金儲(もう)けや」
 「なんやて?」
 「大きな水がめの漏るのん、持ってきた」
 権威主義を揶揄(やゆ)しながら、欲にかられる庶民も皮肉る。目が曇り、物の値打ちを見極める難しさは昔も今も変わらない。
【メモ】「はてなの茶碗」の原話は、「東海道中膝栗毛」を書いた十返舎一九の滑稽(こっけい)本とみられ、いつのころか上方落語に仕立てられた。「茶金」こと「茶道具屋の金兵衛」の店は、室町通の一つ西側の衣棚通とされる。法衣店のほかに茶道具屋も多かったようだが、今は往時の面影はない。

【2008年1月11日掲載】

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