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(211)日向大神宮の天の岩戸(京都市山科区)

福招く「ぬけ参り」
くぐり抜けると罪けがれがはらい清められるという日向大神宮の「天の岩戸」(京都市山科区)
 こんもりとした森に囲まれた日向(ひむかい)大神宮(京都市山科区日ノ岡一切経谷町)の内宮の脇にある「影向(ようごう)岩」から、神明(しんめい)山へと向かう山道の途中に、「天(あま)の岩戸(いわと)」と呼ばれる岩穴がある。巨大な岩石をくりぬいた長さ七メートルほどのL字の穴で、奥に戸隠神社があり、岩戸に隠れた天照(あまてらす)大神を引き出した天手力男命(あめのたじからおのみこと)が祭られている。
 大人なら少し腰をかがめて入らなければならないその岩穴をくぐり抜けると、心と体の一年の罪けがれがはらい清められ、福を招くとされる。「ぬけ参り」として知られ、元旦から年の節目となる二月三日の節分までの間、特に節分祭には多くの人が天の岩戸をくぐり抜ける。
 人の手でくりぬかれたであろう天の岩戸が、いつできたのかは分からない。「京都府山科町誌」(一九三〇年)には、伊勢松坂の野呂宗光が日ノ岡に住んでいたときに、岩戸から神が現れた夢を見て再興し、寛永年間に厄除祭が行われたと書かれている。十七世紀にはすでにあったようで、風化が進む岩肌が、長い年月を感じさせる。
 天の岩戸の入口の脇には、かつて舞台が設けられた石組みが残されている。近年まで、神話にならって舞が奉納されていたが、戦前はこの舞台を使っていたという。
 日向大神宮は、五世紀後半に筑紫日向(阿蘇山の北)の神が降りた高千穂の神蹟を移して創建されたと伝えられている。「京の伊勢」として親しまれ、天照大神らを祭る内宮や外宮のほか、上ノ別宮、下ノ別宮など多くの社殿が境内に配置されている。
 境内は、東山三十六峰のちょうど中間地点、大日山(第十八峰)から神明山(第十九峰)の中腹にある。大日山は東岩倉山とも呼ばれている。巨大な磐座(いわくら)に神が降臨するとの信仰を元に、京都の四方に定められた岩倉の一つとされる。古代から続く岩への信仰が、天の岩戸にもうかがえる。
 津田光茂宮司は「神明山という名前はもとより、岩の信仰や水の信仰など、神へのさまざまな信仰が伝えられています。日向大神宮の節分祭には鬼が登場しませんが、鬼が近寄れないほど、この地に神の力が満ちているからでしょう」と話す。
【メモ】日向大神宮は地下鉄蹴上駅下車。三条通に面した「一の鳥居」から参道に入る。境内には、清和天皇の勅願が行われ、疫病を治めたと伝えられている「朝日泉」がある。隠れた紅葉の名所として知られシーズンには東山トレイルのハイカーが立ち寄る。

【2008年1月30日掲載】

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