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(217)豊園水(京都市下京区)

秀吉愛した味 今も
太陽光発電のポンプでこんこんとわき出る「豊園水」(京都市下京区・洛央小)
 地下鉄四条駅に近い仏光寺通を烏丸通から東に歩くと、街のざわめきの合間をぬって、さらさらと水音が聞こえてきた。
 豊臣秀吉が茶の湯に愛用したと伝わる「豊園水」。この水がわき出す井戸はもともと、秀吉の別邸・龍臥城の敷地内にあった。町衆が明治初期に建てた旧豊園小の敷地内で地域によって守られてきたが、約四十年前に地下工事の影響などで枯れ、二年前に跡地にある洛央小が復元した。
 地下三十メートルから太陽光発電のポンプで水がくみ上げられ、小川のように流れている。コイやハヤも泳ぎ、道行く人も思わずのぞき込む。「埋もれかけていた歴史を地域のみんなにも知ってほしかった」。発案した山脇安三校長(60)は振り返る。
 一八九八(明治三十一)年に町衆が井戸を改修した当時のつるべが、洛央小敷地内にある豊園自治連合会館のガラスケースに保存してある。直径は約三十センチ。江戸時代末期の陶製とみられ、所々が欠けているが白色の表面に梅や松とおぼしき絵柄が描かれ、味がある。
 いつのころに書かれたのか定かではないが、黄ばんだ添え書きにこう記してあった。「徳川時代には遊園地となり、林下に花を賞(め)で清泉をくみ詩情を味(あじわ)う粋人、墨客の遊ぶ者多かったと伝わる。昭和七、八年までは良質の水が出たといわれている」  小川の隣には蛇口があり、飲むこともできる。地域住民がペットボトルで持ち帰ることもあるという。飲んでみると、冷たすぎず、まろやかな口触りだった。
 洛央小の近くに市内有数の老舗「久保田豆腐店」がある。慶応年間の創業といい、百四十年以上の歴史を誇る。使っている井戸はこれまでに何度か枯れたが、そのたびに深く掘り直し、今は地下約四十五メートルからの水をポンプでくみ上げて使っている。
 四代目にあたる久保田岸郎さん(80)が井戸水の成分表を見せてくれた。鉄分や大腸菌など二十六品目すべてで基準値を大幅に下回っている。「水脈はきっと豊園水と一緒でしょう」。久保田さんは誇らしげに語る。
 久保田さんが水道水と井戸水を飲み比べさせてくれた。井戸水の方が格段に温かく、「豊園水」のように軟らかく感じた。秀吉もこの風味に魅了されたのだろうか。
【メモ】「豊園水」が復元された洛央小は地下鉄四条駅を出て、仏光寺通烏丸を東にしばらく歩くと北側にある。脇に豊園水のいわれを記した看板が立っている。その南には真宗仏光寺派本山・仏光寺がある。下京区仏光寺西町。

【2008年2月13日掲載】

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