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(237)与保呂川と蛇切岩(舞鶴市)

川と地域 平穏祈る
美しい姉妹と大蛇の伝説を伝える蛇切岩。川の上手には、蛇を祭ったほこらがある(舞鶴市与保呂)
 舞鶴市の東部を縦断する与保呂川。上流の与保呂地区には田園風景が広がり、川のせせらぎが聞こえる。良質の水源として知られ、山すそに大ケヤキの目立つ日尾池姫神社が鎮座する。地域には「蛇切岩」の伝承が今も残る。
 昔、与保呂の隣村の多門院に「おまつ」「おしも」の美しい姉妹がいた。池のほとりで毎日芝草を刈っていたが、ある夏の日、見かけない若衆が現れた。おまつは若衆に引かれ、二人きりで語り合う仲になった。
 ちょうど、おまつに親の勧める縁談が持ち上がったが、おまつははっきりと返事をしなかった。ある日、姉妹で出かけた池のほとりで、おまつを待つ若衆の姿を見て、おしもは二人の仲に感づいた。恋心を知られたおまつは家に帰るのを拒み、池に身投げした。
 池からは大蛇が出現し、すぐに姿を消した。村ではおまつの化身の大蛇が暴れるのではないかとの噂が広まり、村人たちは牛に模したモグサに火をつけ、池に投げ入れた。
 モグサを飲み込んだ大蛇は、激しくのたうち回る。池の水はあふれ、洪水となって大蛇とともに下流へ。大蛇は途中で岩に当たり、三つに断ち切れた。たたりを恐れた村人は頭部を日尾池姫神社、胴体を堂田の宮(八反田南町)、尾は大森神社(森)にそれぞれ祭った。岩の近くには蛇切岩神社を建立し、大蛇の霊をなぐさめたと伝えられる。
 蛇切岩との伝承が残る岩は、今も川に残り、蛇切岩神社には蛇を模した縄飾りがある。与保呂楽しい村づくり推進委員会の伝承部会に所属する土本義己さん(76)は「御利益があると度々参拝する人もいる」と話す。
 なぜか四つの神社の境内には松が一本もない。大森神社と日尾池姫神社の田中國雄宮司(66)は「うっそうと森に囲まれた神社に松が一本も生えていないのは不思議」と首をひねる。
 与保呂川沿いは桜の名所として知られる。桜で飾る活動を続ける西村敏弘さん(64)も伝承に魅了された一人。「川への畏敬(いけい)の念が込められた物語に、地域の繁栄を祈る気持ちを強く感じる」と話す。地元の女性会でも一昨年、蛇切岩を演劇化し、披露した。川は人々の生活を支え、想像力をかき立てる伝承が地域の人々にはぐくまれてきた。
【メモ】与保呂地区は舞鶴市の東市街地から東南へ約5キロ、府道舞鶴・老富線沿い。JR東舞鶴駅からはタクシーで約15分。蛇切岩奥の「桂貯水池」は、旧海軍鎮守府の水道施設として明治期の建造。各施設は国の重要文化財で、現役の水道施設として使われている。舞鶴市内には、高野川、池内川にも大蛇にまつわる伝承が残る。

【2008年3月19日掲載】

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