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インデックス

ライトアップ 悩む寺院

積極派 文化財の保存
【上】夜間拝観でにぎわう高台寺・臥龍池。平日でも若者が詰めかけた(15日、京都市東山区)
【中】闇夜に浮かぶ紅葉をめでる人たち。一幅の絵画のような光景が広がる(15日、京都市左京区・宝泉院)
【下】泉涌寺の夜間拝観を楽しむ観光客。好評なら来年以降も続ける予定だ(13日夜、京都市東山区・泉涌寺)

 寺院の庭や堂塔を照らす秋の夜間ライトアップが今年も京都市内の約20の寺社で行われている。昼間とは異なる幻想的な雰囲気が楽しめ、多くの観光客を引きつける一方で、人込みの喧噪(けんそう)が僧侶の修行の妨げになると、夜間拝観に背を向ける寺院も少なくない。寺院の維持か、宗教空間の保持か。華やかなにぎわいの裏側で宗教者の迷いも透けて見える。

 京都・東山のふもとにある高台寺は、もともと非公開寺院だったが、1994年春に初めてライトアップに踏み切った。川本博明執事長は「檀家に頼らない寺の姿を考えた。若手だった自分たちで考えた結果だ」と振り返る。批判を承知の上で続けることに、複雑な気持ちもある。「もうけている、客寄せ趣向だと厳しい声も届き、内心じくじたる思いがある。しかし、文化財をいい状態で残すためにはお金が必要だ。法務をおろそかにはしていない」

 市内で寺院のライトアップが広がったのは90年代前半。清水寺(東山区)は92年、永観堂(禅林寺、左京区)は93年に始めた。ホテルなど観光業界の働き掛けや、94年の平安建都1200年に向けて新たな観光の目玉を探っていた行政の呼び掛けもあったという。

 今では秋の夜間特別拝観の期間中、清水寺には平日1万人、週末2、3万人が、高台寺は1カ月余りで17〜18万人が訪れるという。

 左京区大原の宝泉院も十数年前に始めた。夜に参拝者を迎えることに対し、藤井宏全住職は「お寺に行くという行為が、今の一般の人には特別な意味がある。自分を見つめ直す場なのでしょう」という。皇室ゆかりの泉涌寺(東山区)は昨年、天皇陛下在位20年を記念して夜の境内を初めて照らした。「寺は本来、午後4時で閉めるものだが、楽しんでもらいたい。夜に観光ができるのは国内では京都と東京ぐらいでは」

消極派 修行・迷惑考慮

かつての銀閣寺のライトアップ。幻想的な雰囲気が好評だったが、近年は行っていない(97年4月25日撮影)

 一方、宗教施設としての寺院の役割や周辺住民への迷惑を考慮して、夜間拝観をしていない寺院も多い。

 紅葉の名所、東福寺(同)もその一つ。ライトアップを手がける会社から通天橋周辺を照らす提案を受けたことがあるが、断った。五十部泰至寺務長は「通天橋は昼でも人の流れが止まるほどの混雑。周辺の道路も狭い。夜の拝観はとてもできない」と安全面を強調する。

 右京区嵯峨の天龍寺は宗教的理由を挙げる。栂承昭宗務総長は「ここは修行寺。昼間はみなさんに見ていただきたいが、夜は雲水(修行僧)に開放したい。雲水の自分のための座禅は『夜座』。人知れずどこかに出かけて座る環境が必要。ライトで照らしたら気が上がってしまい修行にならない」。十数年前に夜間拝観を行った銀閣寺(慈照寺、左京区)も周辺の渋滞や人だかりがひどかったため近年は行っていない。

 今秋も市内7カ寺でライトアップを手がける企画会社「シー・エム・エー」(東山区)の森永敏夫社長は16年前に高台寺の僧侶たちとライトアップのアイデアを出した一人だ。「寺によっては夜参りという習慣もあり、伝統を無視して始めたわけではない。90年代前半は参拝者が減っていた。夜に観光できるところもなく、若者や女性に京都の町を楽しんでもらえるよう考えたのがライトアップだった」と打ち明ける。

 国際日本文化研究センターの白幡洋三郎教授(都市文化論)は「夜間拝観が仏教を広めるのに役立っている面もあるが、自分を見つめ直すという本来の寺の趣旨を離れ、(寺も拝観者も)ちょっとはしゃぎ過ぎ。経済至上主義と、情報公開を強く求める風潮が『夜でも寺を開けろ』という声になっているのではないか」と話す。

【2010年11月17日掲載】