京都新聞TOP > 観光アーカイブ > 京都・滋賀観光深堀り
インデックス

なぜ「巡り」? 新ルート続々

信仰より集める楽しさ
御朱印帳を手にするドイツ人のマイルヴェスさん。「信仰が薄くても、観光気分で巡礼をする日本人が不思議」(京都市中京区・六角堂)
 御朱印帳を手に社寺を回る「巡り」がブームになっている。西国三十三カ所観音霊場など歴史ある巡礼から、京都市内の社寺だけを巡る平成洛陽三十三所観音霊場など新設されたルートまで、大小含めると京都関連だけで20を超す。ただ、「観光がてら」「集めるのが楽しい」など強い信仰心のない人も多いようだ。みんなどうして巡るのだろう。
 お正月休み明けの4日、中京区の六角堂を訪ねた。「西国」の18番、「洛陽」1番札所。平日昼間なのに1時間で15人ほどが御朱印を求めてやって来た。会社員小川優美さん(24)=伏見区=は1年ほど前から始め、すでに約20個を集めた。「もともとお寺巡りが好きだった。形に残るし、目的を持って回れて楽しい」とほほ笑んだ。
 休暇を利用して来日し、現在「日本人はなぜ巡り好きなのか」を研究中だというドイツ人のダニエル・マイルヴェスさん(29)に偶然出会った。「西国」の一部を実際に巡ってみて、「白装束を着ている人もいないし、観光にしか見えない。ヨーロッパの巡礼は信仰を持つ人が多いのに」と首をかしげる。御朱印が有料であることを挙げ「お寺にとってはいい収益でしょうね。鉄道や旅行会社と提携しているのも不思議な仕組み」と話した。

御朱印帳片手 若い女性も

パワースポットとされる鞍馬寺本殿前で手を合わせる人たち。僧侶は「心からお参りをする気持ちを必ず持ってほしい」(7日、京都市左京区)
 では参拝者はどれくらい増えているのか。六角堂によると、「多い日は200〜300人来られることも。特に若い女性が増えた」という。
 関連本も好調で、2008年12月に「御朱印入門」を刊行した淡交社(京都市)は「4刷りを重ね、約1万5000部売れた。出版不況でも、今も順調に売れ続けている」という。若い女性をターゲットにした「御朱印ブック」を昨年末に出版した日本文芸社(東京都)は「仏像ブームなどをみると流行は一過性でなく、まだまだ続くだろう」とみる。
 なぜ巡りが流行しているのだろう。佛教大の八木透教授(民俗学)は「江戸時代に巡礼が庶民の間で爆発的に広まったように、もともと日本人は巡り好き。全部回ったら達成感が得られ、信仰心がなくても厳かな気分が味わえる。御朱印というコレクションも集まり、何重にも満足できる」と述べる。
 さらに、先行きが見えない時代背景もあるという。「バブルの頃は心霊スポットがはやったが、不景気だと人はプラスのエネルギーをもらえる場所に行きたがる。パワースポットブームがそう。ブームが一段落し、気軽な『心の旅』ができる御朱印帳に向かっているのでは」と分析した。

「スタンプラリーではない」 参拝マナー 懸念も

かつて洛陽三十三所観音霊場の札所だったことを示す石碑。「復活できてとてもうれしい」(京都市上京区・東向観音寺)
 「巡り」スタイルの変化に、寺社側も新たな巡礼ルートを作り、参拝者を誘い込む。
 「洛陽三十三所観音霊場」は、平安末期に西国巡礼に代わるものとして完成したとされるが、明治時代に途切れた。2005年春に「平成洛陽」として復活し、各寺を紹介する冊子が4万部売れた。
 京都市内だけの手軽さに加え、札所には小さな寺も多く「ガイドブックに載らない寺に行ける」(参拝者の男性)ことも人気の秘密だ。城興寺(南区)は「復活するまでは観光客はゼロだった。今は月に100人ほど訪れてくださる」と喜ぶ。
 そのほか、近畿の150社寺が参加する「神仏霊場会」、寺の名前が入った数珠を集める「数珠巡礼」が08年秋に相次ぎ作られた。有名神社を巡る「京都五社めぐり」は07年11月スタートした。
 一方、参拝のマナーについては懸念の声もある。鞍馬寺は「新西国巡礼」の札所でパワースポットとしても人気だが、本殿に手を合わせない人もいるという。同寺は「御朱印はスタンプラリーではない。静かな気持ちで、自分の中の仏様と出会うきっかけにしてほしい」と話す。
 立命館大の赤井正二教授(社会学)は「新ルートは、観光振興にもつながるため、地方自治体が支援しやすく、旅行会社や鉄道会社とタイアップもできる。ただ、パワースポットや寺社巡りに夢中になるあまり、オカルトや霊感商法に足をすくわれないよう注意して」とくぎを刺した。

【2011年1月12日掲載】